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動乱群像録 74

「事態は悪い方には進んでいない。すべてが予定通りだ。後は……」 

 そう言うと清原は机の端末を操作する。そこに移るのは主な嵯峨家の被官達だった。

「間違いないのは嵯峨が今回の戦いには家臣達に身の振り方は自由にと伝えていることだ。とりあえず地下の佐賀高家卿と池卿はこちらに取り込んだ……」 

 髭の目立つ佐賀侯爵。先代の西園寺家当主、西園寺重基公爵の気まぐれで彼の三男の嵯峨惟基が跡目を継がなければ自分が嵯峨の名を名乗れたと年中口にしている反骨の男が烏丸に擦り寄ってきたのは当然だと安東も思っていた。だが嵯峨の三侯爵の中で池幸重いけゆきしげが同調するとは安東も思っていなかった。火星奪還に燃える地球軍を翻弄した陸軍の策士。西園寺派の重鎮である醍醐とは同じ地球方面軍で戦った同志である。たとえ陸軍では烏丸派が優勢だとは言え、そちらに尻尾を振る理由が見つからなかった。

「浮かないようだな『胡州の侍』殿は」 

 そう言ってにやりと笑う清原の顔。正直安東はそう言うところがこの恩人の嫌いなところだった。妙に自分の手柄を誇って見せる。実際池の説得を行なったのは清原であり、誰もが説得はできないだろう彼を引きずり込んだことで陸軍では醍醐卿の勢力を大きく削ぐことに成功したのは事実だった。

「胡州南極基地の防衛部隊……あまりに鍵を握りすぎていると思うんですが……」 

「だからだよ。醍醐君も馬鹿じゃない。決起までに相当数の陸軍士官の行方が消えていると言う報告もあった。いくつかの地表コロニーの防衛部隊が我々に対して音信を途絶しているところから見て彼らを率いて宇宙に上がって決戦を挑むのが醍醐君のプランだろう……だから彼を宇宙に上げないためには南極基地の防衛部隊を引き込む必要があるんだ。それくらいは分かるだろ?」 

 時々見せる相手を見下すような表情の清原。彼が嫌いで西園寺派についている将校がかなりいるのも安東には分かった。ただそれだけ説明をしても納得しないような安藤に清原は不機嫌そうな態度になる。同時に大臣の執務机に来客が告げられた。

「私だ」 

『烏丸卿がお見えになりました』 

「そうか。では私が行こう。それと安東君」 

 得意げに顔を上げる上官に仏頂面しか見せられない安東。その様子に少しばかり顔をゆがめた後、満面の笑みで清原は立ち上がって安東の肩を叩いた。

「大丈夫だ、気にすることは無いよ……そうだ。このところ家にも帰っていないだろ?たまには顔を出して恭子さんを安心させてやれ」 

 そう言うと清原は笑みを浮かべて大臣室を出て行く。安東は相変わらず腑に落ちない表情で恩人に続いて居心地の悪い陸軍大臣の執務室を後にした。


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