動乱群像録 72
「……新三郎さん?」
機体を建て直し目の前の戦前の試作アサルト・モジュール四式を駆る遼南の皇帝を見据えた。
『それでいい。嵯峨惟基やムジャンタ・ラスコーはここにいないことになってるからな。西園寺新三郎、昔の一学のダチが遊びに来たと思ってくれよ!』
そう言いながら背後にレールガンを向けて迫ってきていた旧型の97式を撃ち落す。
「でも本当に……」
『今は俺は大麗で会議に出ていることになってるから……気にするなって』
嵯峨の言葉に涙をこらえつつ洋子は周りを見据えた。
「樋口中佐……状況は?」
『敵は泉州艦隊を避けるようにして丁の四区画に向かってきています。恐らくは温存していたアサルト・モジュール部隊で一気に殲滅にかかると思われますが……』
その言葉にしばらく天を見た後嵯峨はニヤリと笑った。
『洋子坊。強くなりたいか?』
突然の問いに洋子は戸惑ったが静かに頷いた。
『それならここは俺についてきてくれ。樋口さんの予想では城の旦那は全軍率いてきているようだが実際の越州ではアサルト・モジュールの稼働率は高くない。恐らくはそのまま無人のミサイルポッドを使って戦力を削ぎにかかるはずだ。十分何とかなるぞ』
洋子を安心させるかのようにそう言うと嵯峨は手元の端末の情報を表示して明子と濃州鎮台の司令室に送信した。そこには現在の越州艦隊の展開図が見て取れるがそれは樋口がレーダーで割り出したそれとはかなり違っていた。
『多くがデブリを偽装して艦隊に見せかけているだけだな。あちらも第三艦隊がこちらに急行していることくらい知っているよ。そしてもし帝都でことがあってもそれを無視して赤松の旦那が突進してきたらと言う事も想定しているはずだ。そうなると出せる戦力は限られてくる』
樋口達、濃州鎮台が艦船やアサルト・モジュールと思っていた艦影がデコイであることを示す水色に染められていく。
『まあ城の旦那の最後の足掻き。付き合ってやろうや』
余裕のある嵯峨の表情に笑顔を返すと洋子は敵の展開する丁区域に向かって機体を進めた。