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動乱群像録 65

「隊長……僕……」 

「まあ座れや。話はそれからでもええんやろ?」 

 明らかに緊張している楓に声をかける。しばらく躊躇したあと、楓は仕方がないというようにベッドに座った。

「緊張してるんです。僕」 

 少女が自分を『僕』と呼ぶことを不思議に思いながら楓に目をやった。明石は楓の冷たい感じの表情からにじみ出る恐怖にようやく自分が彼女を導いている存在であることに気づかされた。

「そらそうでないと困るわな。ワシ等は命のやり取りがお仕事やさかいそんなに気軽に構えられたらワシのほうが参るわ」 

 そう言って笑顔を作ろうとして明石は気づいた。自分もまた緊張している。かつて死ぬものだと思って対消滅系弾頭付きのミサイルにコックピットをつけた特攻機を満載した輸送艦で出撃するとき。その時も明石は数名の十代の兵士達を引き連れて同じように彼らの平常心を失った表情を見ていたことを思い出した。だがその出撃は三日後の胡州と遼北人民共和国との電撃的な休戦協定で空振りに終わり明石は生き延びた。今回は確かにいつもの乗りなれたアサルト・モジュール三式での戦闘が想定されている。当然はじめから死ぬつもりなど明石には無い。

 だが目の前の少女にとっては初めての戦場。そしてその過程は決して楽観できるものではなかった。

 すでに城一清の率いる越州鎮台府の艦隊は濃州への進撃を開始していることは明石の耳にも届いていた。そして誰もが帝都占拠を狙って清原一派が決起するのは目に見えていることだった。最悪濃州を討った越州の部隊と帝都を制覇後に一気に空に上がった清原派に挟まれての戦いさえ考えられる。

 しかもその清原派には胡州一のエースとして知られる安東貞盛がいる。

「なんや……ワシも何を言うたらええのんかわからん……生きて帰れる保障は無いし」 

「いえ!死ぬのは恐れていません!」 

 そう言い切った楓の頭を明石は軽くこぶしで小突いた。

「そないなことは軽々しく言うなや。生きる死ぬは戦場ではただの運なんやと思うとったほうがええで。ワシも特攻機で出撃する、このまま死ぬ、何もできずに死ぬ、そう思うて戦場に行ったら戦争が終わっとった。それから後はほんまただの生ける屍や。何もする気ものうて寝るだけ。いつの間にか闇屋の幹部で切った張ったしとった……」 

 明石に小突かれた頭をさすりながら不思議そうな表情で巨漢の明石を見上げる楓。彼女も170センチを超える長身だが巨漢の明石に比べたらまさに小娘と言う雰囲気だった。静かにうつむいて明石の言葉に耳を傾けている。

「パイロット稼業の長い魚住のアホが言うとったわ。戦場じゃあ最後まで諦めなかったほうが生き延びるんだと。あいつの言うことはいちいち気に障るが多分それがほんまの話なんとちゃうやろか……」 

 そう言うとうつむいていた楓は静かに頷いた。


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