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動乱群像録 64

「ワシはここか?」 

「ああ、隣が女の子だからな。気を使えよ」 

 そう言うと振り向いて去っていく魚住。

「あとでブリーフィングルームで会おうや」 

 小柄な魚住の姿はそのまま士官の個室の一つに消えた。明石はそれを確認するように見守った後、バッグを持ったまま自分の私室に入った。士官用ということでそれなりの調度品が並んでいる。戦艦とあって金属製の机や戸棚は仕方の無い話だった。明石は硬そうなベッドにバッグを投げるとしばらく部屋を見回した。先の大戦後に就航した『播磨』。戦いの直前に完成しゲルパルト戦役で沈んだ『富岳』の700メートルには劣るものの500メートルの全長は現在胡州でも一番の巨艦である。その士官室もかつて明石が特攻機に乗るために出撃した輸送艦の比ではない位豪勢に見えた。

「生きてりゃええこともあるっちゅうわけやな」 

 そう言うとなんとなくすることもなくなって執務用の机に備え付けられた簡素な椅子に腰掛ける。椅子も見た目よりは頑丈で2メートルを超える巨漢の明石の体をやすやすと受け止めた。

「敵は安東貞盛……」 

 そう言って思い出すのは安東機のエースらしいパーソナルカラー。赤黒い地の上にどす黒い体をのた打ち回らせる浮世絵風のムカデの文様。その前に多くの地球軍のパイロットは絶望して死んでいった先の大戦。今度はそんな安東に明石達が挑むことになるのはほぼ誰もが考えていたところだった。

「死にたい死にたいと思うて闇市で転がってたら今度は死にとう無くなってきた……まるでファウスト博士や」 

 そんな独り言を言った明石の背中で呼び鈴が鳴る。

「どうぞ!開いとるで!」 

 明石のどら声が響くのとドアが開くのが同時だった。そこには先ほど魚住に見せた凛とした表情の面影もない楓の姿があった。

「あの……少佐……」 

 右手を抱えるようにしてうつむきがちに立っている楓。その様子は見た目どおりの13歳の少女のものだった。貴族特権で未成年で軍に入って下士官を務めているとはいえ、彼女はどこまで行っても少女でしかない。それを思い知ると明石はぎこちない笑みを浮かべて自分のバッグに手を伸ばした。

「ちょっと場所作るよってここに座り」 

 そう言うと手で軽くベッドの縁を叩く。少しばかり笑顔を作ると楓はそのまま腰を下ろした。


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