動乱群像録 62
「久々よのう」
明石はそう言うと大荷物を背負った楓を見ながら乗り込もうとする胡州第三艦隊旗艦『播磨』を見上げた。帝都を離れて惑星胡州軌道上の第三艦隊の母港である予州は活気に満ちていた。先の大戦で大半の施設が破壊されたと言うのに跡も残さず改修された閉鎖型コロニーに接岸する戦艦や巡洋艦が並んでいる。
「壮観ですね」
楓はそう言うと立ち止まった明石の隣できょろきょろと周りを見回した。
「ここはワシ等は片道切符で出かけたモンや。ワシの知り合いもほとんど死んどる」
明石の言葉に表情を変える楓。確かに明石にとってはかつての特攻機を満載した輸送艦の母港としてこの施設が考えられていることを思い返していた。
「ええねん。気にせんといてや……行こか」
そういい残してそのままタラップを進む。すれ違う兵士達の表情は硬い。誰もがある程度覚悟はできていた。
烏丸派の重鎮と目されている南極基地の池幸重大佐や安東貞盛の陸軍第一教導連隊。どちらも彼らが去れば帝都を占拠にかかるのは目に見えていた。その結果帝都の彼らの知り合いが戦火の中に置き去りにされる。その予定は変えられないと誰もが思っていた。
「おう、来たか」
『播磨』の隔壁に寄りかかってニヤニヤ笑っているのは魚住だった。
「ずいぶんな物資やないか。やはりとんぼ返りは勘定のうちか?」
明石の言葉にただなんとなく頷きながら荷物の重そうな楓に手を差し出す魚住。楓は彼を無視して『播磨』に乗り込む。
「……まあ誰でも同じことを考えているだろうな。今回の内戦はもう始まっているんだ」
魚住は『内戦』と言う言葉を使った。そのことに明石もすでに覚悟はできていた。
「権力争い……ワシも寺の息子やさかい結構体験しとるが……ええもんちゃうで」
「いいも悪いも無いさ。もうこの国には二つの派閥を並べておくような余裕は無いんだよ……案内するぞ」
静かに魚住はそう言うと先頭に立って質素なつくりのエレベータに明石達を導いた。