動乱群像録 61
「なら考えるまでも無いんじゃないかな。最適な部隊を最適な叛乱軍に当てると言う現場の意見に私が口を挟む理由は無い」
あっさりとそう答えた西園寺の口調に誰もが耳を疑った。帝都の防衛を主任務とする近衛師団を預かる醍醐などは椅子から転げ落ちそうな様子だった。
「よろしいのですか?」
隣で西園寺が見つめている端末を支えていた秘書官が分を忘れてそう叫んでいた。
「よろしいも何も……叛乱の一刻も早い鎮圧が現在の急務だ。なにかね……この中に私の命をとりたいと念じている人でもいるのかな」
この西園寺の冗談は笑えなかった。誰もが黙ってお互いの顔を見合わせる。赤松は噴出しそうになるのを必死にこらえながら周りの将官の顔を眺めていた。
烏丸派の急進派として知られる中将の顔に渋い笑みが浮かんでいる。西園寺派でも慎重で知られる海軍大将は黙って目をつぶっている。それぞれ考えることは一つ。間違いなく西園寺は烏丸派の暴発を引き起こそうとしていることだけは誰の目にも明らかだった。
しかし誰も赤松の第三艦隊の出撃を止めるものはいない。
すでに議場の隅で立って会議を眺めていた秘書官級の佐官達は端末で各地の情報を集めているところだった。赤松のつれてきた別所と魚住もしきりと携帯端末をいじり始めていた。明石や黒田はすでに原隊に戻ってしまったようで姿が見えない。
「なにかな……そんなに急に騒がしくなっちゃって……僕はおかしなことを言ったかな?」
とぼける西園寺。その視線の先には唇をかみ締めて西園寺をにらみ続けている清原の姿がある。
「では……時間も無いでしょうから解散と言うことで」
そう言うと西園寺は立ち上がった。そのまま誰とも目をあわさずに扉を開く秘書官。廊下から盛んにフラッシュの光が西園寺が出て行くさまを彩っていた。
赤松は黙って端末を覗き見て膨大な数のメールを確認してげんなりとした後で立ち上がろうとした。
「赤松君!」
声をかけてきたのは以外にも清原本人だった。薄ら笑いを浮かべる剃刀と呼ばれる近づきがたい表情を見て赤松は苦笑いを浮かべた。
「本当に良いんだね?」
「は?何がですか?」
とぼけて見せた赤松。その口調に肩透かしを食ったと言うように目を見開いた後シンパの面々を連れて会場を出ようとする清原。
『そちらの考えは読めてんで』
赤松はそう心の中で笑っていた。