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動乱群像録 58

「ご心中お察し……」 

 そこまで言って別所は言葉に詰まった。一人顔を下げて目をこする赤松。上官の涙を初めて見た別所は当惑していた。

「ええよ、気いつかわんでも。どうしようもないことは世の中色々あるやん」 

 赤松は顔を起こした。目は赤く染まっているのが別所からも見える。

「ですがどう動きますか?恐らく討伐隊には第三艦隊が選ばれるでしょうが……」 

「清原さんは動くやろな。ワシ等が離れれば決起の好機や。見逃すほどアホやないやろ」 

 そう言ってそのまま椅子に身を投げて伸びをする赤松。その様子を見て赤松がかなり悩んでいることに別所は気が付いた。

「でも良いんですか?閣下の奥さんは……」 

「貴子さんのことは言っても無駄や。あの人はワシより男らしいよって。『情に流されるなら死になさい』と言われるのが落ちなんちゃうか?」 

 安東貞盛の姉に当たる赤松忠満の妻貴子。凛として常に武家の妻を演じている彼女の姿を見慣れている別所も赤松の言うことはもっともだと思っていた。しかし、問題はさらに複雑だった。赤松の妹の恭子は安東の妻だった。彼女は心が弱く、輿入れ後は長いこと床に伏せっていた。

「言いたいことはわかるんやけど……私情ははさみとうないなあ」 

 赤松はすぐさまそう言って別所の言葉をさえぎる。

「ともかく醍醐はんと作戦のすりあわせをせなあかんな。出かけるぞ」 

 そう言って立ち上がって詰襟の一番上のホックをかける赤松。つられて別所は腰に手をやるが先日の赤松の訓示で軍刀をはずしていたのを思い出して苦笑いを浮かべる。

「丸腰はやはり慣れないわなあ」 

 赤松はにこりと笑うと再び神妙な顔つきに戻って傾いていた帽子を被りなおした。

「おやっさん!」 

 ドアを開けるとそこには魚住と黒田の姿もあった。二人とも神妙な表情で赤松に敬礼する。

「官邸から出頭命令が出ました」 

 魚住の言葉にうなずいた後、廊下の天井を見上げる赤松。

「始まりやな」 

 そう言うと別所が先に立って歩くのに付き従う赤松だった。

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