動乱群像録 57
赤松忠満准将は第三艦隊司令室で画面の中のかつての友に苦い表情で接していた。
「俺は知らん」
先日飲み明かした安東貞盛はそう言うと下を向いた。
「あのなあ、ワシは貞坊を責めるつもりで言うとるわけやないで。清原はんのすることに色々言いたいのはほんまやけどそれをすべて貞坊が把握し取るとは思うてないわ」
時に激しそうになるのを抑えながら赤松は言葉を続けようとして口ごもる。
越州コロニーの鎮台府の艦隊が濃州に向かっていることは二人とも知っていた。そしてその濃州は二人の親友だった斎藤一学の領邦であり、今は彼の妹の明子や忘れ形見のトメ吉の子光子が住むコロニーとして思い入れのある場所だった。
「城さんがあそこのコロニーに含むところがあったのは昔からだ。そして清原さんは城さんとは親しい。俺がどうこうできる関係じゃないんだ」
そう言い訳をする画面の中の友。赤松も知っていた。安東がどうこうできる話ではない。確かに安東の『胡州の侍』の異名は烏丸派の陣営を固めるために宣伝されている重要な売り文句のひとつだった。そして彼を慕う多くの士官達がそんあ安東を持ち上げており、その様子に清原准将が一目置いているのは事実だった。だがそれは大局を動かすほどのことではなかった。
胡州はテラフォーミング化した遼州星系第四惑星と二つの衛星、そして衛星軌道上の十七のコロニー群と明日テロイドベルトの二十三のコロニー群で構成されている。物資を東和や外惑星コロニーに頼っているアステロイドベルトコロニー群では烏丸派の支持は少なくその中で越州は孤立していた。しかし、他のコロニーの防衛艦隊は現在外惑星の動乱の仲裁のためはるか遠くに展開している。その状態で烏丸派の清原准将が親友の城一清提督に決起を依頼することは別に不思議な話でもなかった。
「どうしても……どないしても戦争にしたいんか?戦争がそんなに好きなんか?貞坊……」
答えなど求めていないと言うように赤松がつぶやく。
『すまん』
それだけ言うと安東は通信を切った。
「一人で苦しむなや……苦しんでどないすんねん。洋子や光子を殺すことになるかもしれへん城さんの行動を阻止でけへんことはお前のせいやないんや」
赤松はそう言うと伸びをした。執務室の応接用ソファーには赤松の片腕である別所が静かに座っていた。二人の目が合う。そして大きなため息が赤松の口から漏れた。