表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/194

動乱群像録 49

 待合室の空気が魚住に流れていた。赤松提督の子飼いの士官として名の売れている明石と魚住。明石は教導部隊の隊長としてこの場にいても自然だったが、その明石に魚住が会いに来ていることがこの場にいる烏丸派の将校達の視線を厳しいものにした。

「同盟との連携だ?なんであんな連中と手を組まにゃならんのだ?」 

「やってられるか馬鹿野郎。とっとと政治犯扱いで刑務所に放り込めよ」 

 端末を壊した士官の肩を叩いていた同僚達が明石達を見ながらつぶやいているのを聞いてこぶしを握り締める明石の背中を魚住が叩いた。

「挑発には乗るな。分かってるだろ?」 

 心配そうな楓の表情を見て明石は勤務服の胸のポケットからサングラスを取り出してかける。

「そやな。年金頼みの貴族連の腰巾着の……」 

 そこまで言ったところで端末を壊した士官は明石に走り寄ってきていた。彼が振りかぶった右のこぶしはすでに殴る体制のできていた明石には無意味だった。明石のストロークの短い左のジャブがパイロットスーツの士官の腹にめり込んだ。彼は何もできずにその一撃で意識を失い倒れこんだ。

「弱い犬ほど良く吼える……真理やなあ……」 

 さっと背筋を伸ばした明石。仲間を一撃で倒されて烏丸派の残りの二人の将校は後ずさりながら明石を見上げた。もともと闇屋から裏家業での生活の長い明石はこういう時の喧嘩の仕方は良く心得ている。そしてそれ以外にも二人の将校が読み間違えていることがあった。

「どこで喧嘩をしてるか分かっているのかねえ」 

「やっちまって良いですか?」 

「赤松公の慈悲で丸腰なんだよ俺らは。ついてるなお前等」 

 自動販売機に並んでいた技術士官やエアカーテンの中でタバコを吸っていたパイロット達。彼らも多くは赤松恩顧の兵士達だった。倒れた同僚を助け起こすこともできずに取り囲まれる二人。

「止めや!リンチはいかんで。なあ」 

 余裕の笑みで明石が二人を見下ろす。冷や汗を掻きながら状況を見守っている二人に魚住は気を利かせて気絶をしている最初に手を出した将校を抱えて手渡した。

「すまないねえ。明石は極道モンだから加減を知らなくて……」 

 そう言ってにやりと笑う魚住を見るとすぐに二人はようやく意識を取り戻して唸り始めたパイロットスーツの士官の肩を取るとそのまま引きずって廊下へと消えた。

 周りの西園寺派の将校達は納得したようにあたりに散る。そんな様子を楓はただ呆然と見守っていた。

「お嬢。このくらいでびびっとったらいくら心臓が丈夫でもおかしくなるで」 

「いえ、殴っても良かったんですか?ああ言う手合いは。僕はその……判断がつかなくて……」 

 そう言って笑いながら指の関節を鳴らす楓に明石は改めて彼女があの嵯峨惟基の娘であることを確認していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ