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動乱群像録 4

 串カツを咥え。注がれたままのビールを見ながら明石は思い返す。それは先の戦争がどうして始まり、胡州はどう敗れたかということだった。

 それはたった一つの半径5kmほどの遼州星系外アステロイドベルトの小惑星をめぐる領有権争いがきっかけだった。胡州帝国、ゲルパルト帝国、遼南帝国。この三国を中心とする枢軸陣営は地球を中心とする秩序を否定した新たな世界観を提唱すると言う名目で全面戦争に突入した。

 枢軸側の奇襲は一枚岩になれないアメリカを中心とした連合軍を寸断し、緒戦は枢軸側の圧倒的勝利で戦いは始まった。地球ではアフリカ、中央アジアや南米で枢軸側は破竹の勝利を続け、同調する東アジアにも食指を伸ばそうとしていた。この遼州星系でも第三惑星遼州の衛星、大麗を占領し、遼北、西モスレムを圧倒して戦い帰趨は決まるかに見えた。

 だが連合国の足並みが揃いだすと広がりきった補給線を抱える枢軸側の進撃は鈍った。他の植民惑星の連合側での参戦が次々と報道されるにしたがって無茶とも言える進撃は止まった。参戦を打診していた東和の中立宣言が進撃を一方的敗走に変えた。遼州星系第四惑星と二つの衛星、そして幾多のコロニー群で構成される胡州帝国は地球圏と遼南支援作戦で戦力を消耗、風前の灯と見えた。だが多数の戦死者を出し講和の道を探していた遼北人民共和国との電撃休戦と言う外交戦術で何とか直接攻撃を受けることは無く終戦を迎えた。

 休戦協定で多くのアステロイドベルトの権益を失い、遼南東海州の領土を割譲され、多額の賠償金と貴族制中心の国家体制の変更を連合国に突きつけられ斜陽の大国の様相を呈していた。遼北との休戦協定の締結に尽力した外交官僚、西園寺基義さいおんじもとよしは軍部との対立で放逐されていた中央政界に復帰、胡州四大公の筆頭の当主として次第に政治的発言権を強めていた。

 一方、連合国との協定文書で軍部や官界を追われた下級貴族達は四大公で西園寺との確執が噂されていた烏丸頼盛を頼った。彼等は貴族だけが被選挙権を持つ枢密院での数を背景に西園寺が率いる庶民院に強い政治集団の『民派』との政治抗争を開始した。

 亡国の体を見せた政治抗争が続く中。この両者の対立を収めたのが保科家春と言う個性だった。四大公の一つ大河内家の惣領に生まれながら、弟に家督を譲って枢密院での形ばかりの議員をしていた男は人材の枯渇した胡州の政界に颯爽と躍り出ることになった。西園寺家、烏丸家とも姻戚である彼は政争に走ろうとする巨頭二人に会談の場を設けて烏丸頼盛を首班とする挙国一致内閣を成立させ、自ら枢密院議長としてにらみを利かせた。

 時に対戦中に皇帝が追われて枢軸を抜けた遼南共和国で内戦が勃発。同じく国家解体されていたゲルパルトなどの外惑星コロニーでの独立運動が活発化するとその中央に位置する胡州の戦略的価値は上昇、旧連合国もその安定化を促進するために賠償金の免除や積極的投資などにより復興が加速していた。経済的安定は一時的に政治抗争を中断させることになった。そして貴族の没落、経済人の発言権の拡大は自然と胡州を連合国が望んだ民主国家へと変貌させることになる。誰もがそう思っていた。

 だが、そんなことは今の明石にはうそ臭いごまかしのように見えていた。

 拝金主義で金で貴族の爵位を買いあさる成金。公然と賄賂で財を成す官僚貴族。上官の政治的立場でころころと態度を変える職業軍人。闇市で素人を食い物にする自分への言い訳の為に彼等の偽善を心の中で暴き立てて喜んでいる自分を嫌いながらもそう生きるしかないと覚悟して今まで生きていた。

 そんな明石の隣で串カツを旨そうに頬張る赤松と言う男を明石はどう定義すれば良いのか悩んでいた。

 赤松家は『西園寺の大番頭』と呼ばれる西園寺家臣団の筆頭の家柄である。そして海軍は現在は病気療養中の大河内吉元前海軍大臣に代表される『民派』の牙城である。

「あのう……」 

 明石は恐る恐るコップ酒を傾ける将軍に声をかけた。

「なんや?……おう、少ししか食うとらんやないか!とにかく食え」 

 そう言って赤松は串カツの乗った皿を明石に突きつける。

「金なら気にするな」 

 反対側に座る別所がそう言いながら串カツを咥える。隣の魚住はすでにコップにあふれるほど注がれていた日本酒を一息で空ける勢いで飲んでいる。

「ワシは……なんで?」 

 まだ状況の読みきれない明石は恐る恐る赤松に話しかけた。

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