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動乱群像録 27

 明石から見ても楓の成長は異常だった。配属一ヶ月で彼女の相手が務まるのは明石だけになっていた。それどころかシミュレータでの訓練では明石も苦戦と言うより逆に追い込まれることも多くなっていた。いつもの通り執務室の端末のモニターで第六艦隊所属第一特機戦団相手にまるで子ども扱いするような余裕の教導を行っている明石の部下達。だがその中でも楓の働きには目を見張るものがあった。

「おい、明石」 

 画面に夢中だった明石が突然の人の声に驚いて目を剥くとそこには別所が立っていた。

「なんや、晋の字か。ちゃんとノックぐらい……」 

「したんだがな。俺もそれほど暇じゃないんだ」 

 そう言うと別所は明石の執務机の前に置かれたソファーに腰を下ろす。

「嵯峨大公の姫君か。お前が入れ込むのも当然だな。先週はうちの若いのも天狗の鼻を折られて良い体験をさせてもらったよ」 

 別所はそう言うと携帯端末を取り出す。

「おべんちゃらを言いに来たんか?ほんま、暇やな」 

 そう言って向かいのソファーに腰を下ろす明石に苦笑いを浮かべるが、すぐに別所の顔は真剣なものへと変わる。

「保科さんが入院した」 

 別所の言葉にそれまで浮かんでいた明石の笑みが消えた。

「病気か?お前一応医者の免許もっとんのやろ?どないなっとる」 

 予測はされていた事実とは言え、二人の表情は自然と暗くなった。

「今度は消化器系から転移して肺ガンらしい。しかもかなり進行しているそうだ」 

 それだけ言うと別所はテーブルの上に置かれた安いライターを手に取る。

「ガン言うたら手術どころかレーザーでもなんとかなるんや……」 

「初期のガンならばその通りだ。さらに最近は転移が無ければほぼ治癒率は90パーセントを超えている」 

 実業義塾大学医学部出身だけあって、その深刻そうな表情には嘘はないように見えた。現在二派に分かれて権力闘争を続けている胡州貴族達をまとめているカリスマの病状。それが重大な意味を持つことは誰の目にもあきらかだった。

「肺以外にも……」 

「ああ、俺が聞いた範囲では胃から下、十二指腸、小腸、大腸、直腸。どこもぼろぼろらしい」 

 その言葉に明石は唇をかみ締めた。

「もって……どれくらいだ?」 

 沈痛な明石の顔を見ると、別所は大きく深呼吸をした。

「おそらく会話などの意思疎通が出来るのは今月一杯。生命維持装置をつけても半年が良いところだ」 

 別所の言葉に明石は身震いが走った。胡州の重鎮、保科家春が倒れればそれまで彼を緩衝地帯として直接の対決を避けてきた西園寺、烏丸両派は間違いなくぶつかることになる。そしてその仲裁することが出来る人物は一人しかいなかった。

「嵯峨殿の胡州復帰は……」 

 すがるような明石の言葉に別所は静かに首を横に振った。

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