表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
190/194

動乱群像録 190

 重い空気。だれもが黙り込んで静かに墓石を眺める。線香の香りが当たりに漂った。

「返して……」 

「すまない」 

 兄の言葉にその発せられたほうを見た恭子の顔は涙に濡れていた。

「なんで……貞盛さんは……」 

「それは武家の習いでしょ」 

 卒塔婆の脇から貴子が現れてそう言った。そんな弟の死を一言で片付けた姉に殺気を込めた視線を投げる恭子。明石達はただ呆然と二人を見守るばかりだった。

「忠義に生きて忠義に死んだ。私としてはよくやったと褒めてやりたいわ」 

「そんな……」 

 恭子は赤に菊模様の留袖の裾を目に当てて涙をぬぐう。そんな有様に明石はその後の羽州の混乱の話を思いだした。

 安東を自刃に追い込んだ秋田義貞が跡目を継ぐべく西園寺邸を訪ねたが、宰相西園寺基義は門をくぐることすら許さなかった。そしてそのままシンパを集めて会議をしているところに過激派が襲撃をかけ、秋田一門の多くは惨殺されたという。

「一学……貞坊……いい奴ばかり死にやがる」 

 嵯峨はそう言うと手にしてきていた桶の水を墓石にかけた。静かに水が流れる。そして線香を持っていた貴子が明石達にも線香を配った。

「貞盛は明るいのが好きだったから……泣くのはよしましょうよ」 

 逆賊として公に葬儀を行なうことも許されずに恭子と数人の被官だけで行なわれた葬儀に参加できなかった姉は静かに弟の墓標に線香を献じた。そして静かに手を合わせる。

「ありがとう……有難うございます」 

 途切れ途切れに恭子は義姉に静かに頭を下げた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ