動乱群像録 185
静かに廊下を出る二人。
勝利の余韻に浸ることも許されず緊張した空気の流れる海軍省。その廊下を黙って二人は歩く。エレベータ。消費された物資の計算書を手にした事務官達に押されるようにして二人はそのまま一番奥に追いやられた。
「あ!赤松将軍」
「ええで、仕事が一番大事や」
そんな赤松の言葉に疲れた笑みを浮かべると事務官はすぐ次の階で開いた扉から出て行く。
「戦争は……本当に物量の浪費だからな」
「そう思っとんなら胡州の海外資産の凍結解除をなんとかせいや」
そんな赤松の不満に懐手の嵯峨がにんまりと笑う。ドアが開きセキュリティーチェックを済ませた二人の前には貴子が立っていた。そしてその隣には先ほどまで庭で話をしていた明石、別所、魚住、黒田そして正親町三条楓の姿があった。
「忠満さん。この人達も付き合いたいんですって」
貴子の笑みを含んだ言葉に思わず赤松の顔が緩んだ。
「楓。どうだ、部隊は」
久しぶりに会う親子の姿をほほえましげに巨漢の明石が見下ろしている。
「勉強になります。色々と」
「ああ、そうだ。未来の旦那は見つかったんか?」
赤松の言葉に楓は理解できないと言うような顔をしていた。
「忠さん……こいつは要の馬鹿にご執心でね。お前さんのお袋みたいに」
父の言葉に顔を赤らめてうつむく楓。明石達は楓の父親のよく分からない言葉にしばらく呆然と楓を眺めていた。