動乱群像録 180
「確かに……忠さんの言うことももっともだね」
そう言いつつ嵯峨は相変わらず不機嫌そうに立ち上がるとそのまま椅子に戻った。
「とりあえず首と胴体がつながった感想はどうだ?」
「お許しいただけるのですか?」
嵯峨の投げやりな言葉に佐賀は少しばかり笑みを浮かべて顔を上げる。
「まあ姉貴にさあ。殺すなって言われてるんだよ。これ以上人死にを出して何をしたいんだってね」
嵯峨の義理の姉、西園寺康子。その化け物じみたこの内戦での戦いの噂が駆け巡っているだけに彼女に諭された嵯峨が無理をしないのを納得して赤松は自分の席に戻った。
「兄上……」
「すまん……文隆」
力が抜けたように頭を下げる弟をなだめる兄。その様子に嵯峨の視線は惹きつけられていた。
「なんやかんや言いながら血のつながりってのは重要なんだねえ」
赤松のそう言う旧友の表情が複雑なものになっているのを察した。母の同じ唯一の弟ムジャンタ・バスバを政治的取引の関係で斬殺しなければならなくなった時。それ以上に父、霊帝の送り名のムジャンタ・カバラと死闘を繰り広げた少年時代からこの男には誰も信じられないという信念が芽生えたのかもしれない。そんなことを考えながら貧弱な少年としか見れなかった13歳の時の出会いのことを思い出す。
「それにしてもええのんか?まもなく影武者さんが帝都に入国することになってんで」
「あっ!」
思い出したように立ち上がり頭を掻く。そして腕の端末で時間を確認して大きくため息をつく嵯峨。
「つまらないことに時間使っちゃったよ……あと二時間で鵜園殿で宰相の任命式だ」
「お上、お急ぎください」
気分を切り替えた醍醐は立ち上がると自分の端末を開いて陸軍省に連絡を取る。そんな勝者達を眺めながら決して自分が許されることはないと思いながら佐賀は一人で床に座り続けていた。