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動乱群像録 18

 海軍省の建物を出るとすでに胡州の赤い空は次第に夜の紫に染め上げられようとしていた。

「そうだ、明石。付きあえ」 

 突然の別所の言葉に明石は当惑した。だがそれを別所に悟られるのが悔しくて向きになって彼を見下ろした。

「ええで。だがこいつ等の足はどないすんねん」 

 そう言って魚住と黒田を見やる。別所の車で四人で来たため二人は足を奪われることになった。

「ああ、心配するな。タクシーでも拾っていくことにするから」 

 魚住は満面の笑みで黒田を見上げる。黒田はそれで何かを気づいたと言うようににんまりと笑った。

「じゃあ、決まりだな。来い」 

 そう言って別所はそのまま裏手の駐車場に向かう。明石もそれに続いた。閑散とする駐車場に一台止められている黒いスポーツカー。それに向かって歩く別所。

「どうだ?保科と言う御仁は」 

 車の周りで挨拶をしている武官達をやり過ごすとつぶやくようにたずねてくる別所に明石は首を振った。

「あれだけで分かるんやったら苦労せえへんわ」 

「そうだな」 

 別所はそう言うと車のキーを開ける。明石は体を折り曲げて狭い車内に体をねじ込むようにして座った。

「黒田の奴、よう座っとったな。ぶちきれて殴りかかるんやないかとひやひやしたで」 

 そう言う明石の言葉を無視してそのまま別所は駐車場を出た。

「それはともかく……実はな。お前の昇進と部隊配属が正式にに決まったんだ」 

 友の口からそんな言葉が出ても特に明石は驚かなかった。赤松准将の懐刀として知られた別所は上層部にもパイプを持っていることは知っていた。さらに、西園寺派の陸軍の醍醐少将などとの連絡を行っているのは彼の部下達だった。

「まあ、昇進試験は自信があったからな。それに西園寺公の推挙があれば海軍じゃフリーパスなんやろ?」 

 皮肉るつもりだが、別所は乗ってこなかった。そのまま車は屋敷町を走る。

 屋敷町でも官庁街からすぐの大きな門をくぐった。それが西園寺基義卿の館であることは明石も読めた。すぐに書生が駆け寄ってきて奥の駐車場へと車を誘導する。

「なんや、御大将も来とるやないか」 

 明石の目に第三艦隊の『二引き両左三つ巴』、赤松家の家紋をかたどった隊旗をつけた公用車が見える。

「貴様の昇進を祝いたい人がいるってことだ。良い話だろ?」 

 そう言ってキーを抜いて駐車場に降り立つ。だが、明石はそこで見慣れないガソリンエンジンのスクーターが止まっているのに気づいた。

「なんや、あれ。出前でも取ったんやろか?」 

 明石の言葉に苦笑いを浮かべながらそのまま別所は玄関へと向かう。

 赤松家よりも二回りも大きい玄関だが、そこには駐車場にいた書生以外の人の気配が無かった。だが、別所はそのまま靴を脱ぎっぱなしで上がりこむ。書生が駆け寄って靴を持つのを見て明石もそのまま上がりこんだ。

 長い廊下。次第に闇に落ちていく庭を見ながら二人は奥に進んだ。

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