動乱群像録 17
「それなら君達が態度で示せ!」
そう叫んで保科老人はSPを連れて退出した。それに続き明石達を一にらみして立ち去る清原准将。会議室は騒然とした。
「出るぞ」
それまで一人黙り込んでいた別所がそう言った。明石も立ち上がり、あちこちで怒鳴りあいを始めた若手将校達を押しのけてそのまま会議室を出た。
「なんだよ。結局ただの説教じゃないか」
魚住の言葉に黒田も頷く。
「そうやろか?少なくとも同盟の話が胡州抜きで進んどる言うのが分かっただけで収穫やと……」
そんなことを言っている明石の視界に一人の陸軍大佐の姿が目に入った。
「安東大佐?」
別所が足を止める。
安東貞盛。彼は赤いムカデの描かれた胡州軍制式アサルト・モジュール97式を駆り、奇襲と伏兵で進出を急ぐ連合軍をアステロイドベルトで翻弄した。その戦いは『胡州の侍』と呼ばれて、終戦後は彼の存在を不快に思った連合国への配慮のため事実上の軟禁生活を送っていた男だった。
その伝説の名将が今目の前で保科老人と清原准将と雑談をしている。
「動くな。これは」
それだけ言うと別所はその光景を眺めている明石のわき腹をつついた。
「どういうこっちゃ?安東はんは……」
「先月、烏丸首相は敗戦時の追放リストの見直しを行った。その中に安東さんの名前もあったと言うだけのことだ」
そう言う別所の声が震えているのを明石は聞き逃さなかった。
「これで陸軍の烏丸派の連中の意気が上がるなあ」
魚住はそう言いながらちらちらと安東大佐のいた辺りを振り返る。黒田もそれにならった。
「なに、軟禁されていたなまくらなど私達の敵じゃないはずだ」
自信をこめた声で黒田がそう言った。
「あれやな、保科はんももう現状は止められへんいうのがよう分かったわ。胡州はいつ火が入ってもおかしくない火薬庫になった。そう言うことやな」
明石の言葉に悲しげな表情で振り返った別所。そして彼はその言葉に頷くことしかできなかった。