動乱群像録 164
『大佐!抵抗はやめてください!』
驚いたように叫ぶ秋田の声を聞きながら安東は笑みを浮かべていた。
「部下に裏切られての最期……俺らしいか」
そう言うとパイロットスーツについていた短刀を取り出す。外部のモニターでその様子が見えるらしく秋田は部下にドアの破壊をするように命じたようで外が相変わらず騒がしい。
しずかに中央の床にどっかりと座る。短刀の刃は静かに銀色の光を放っていた。
「辞世の句くらい用意しておくべきだったかもしれないが……それはらしくないかな」
そう言うとすぐに喉にその刃を添える。鋭い刃は静かに喉の肌を切り裂き痛みが安東の顔をしかめさせた。
扉の外から非常用の鉈でドアを壊す音が響いてくる。
「恭子すまない。俺の信義だけは譲れないんだ」
さらに短刀の刃を押すべく左手を添える。次第に短刀を持つ右手に赤い血が流れてくるのが分かる。
「大佐!」
半分壊された扉から秋田が叫ぶのが安東からも見えた。
「じゃあな」
慌てる秋田を見ながら安東は左手に力を込めた。鮮血が流れる中、安東の意識が途切れる。
「早くしろ!医務官を呼べ!すぐに輸血だ!」
秋田は部下達を急き立てるが静かに床に倒れていく主君を目にして彼の目にも涙が浮かんだ。
「大佐!」
そんな秋田の叫びはどこにも届くことは無かった。