動乱群像録 158
「今度はどうした!」
衝撃にずり落ちた椅子にしがみつく清原。シートベルトをしていたオペレータが焦りつつキーボードを叩く。
「今度は第三艦隊です!」
「何だって!」
清原が叫ぶのももっともだった。すべての第三艦隊の船はアステロイドベルトにある。そう信じ込んでいた参謀や清原達。だがその一部艦隊が下方に展開し射撃を始めていた。
「どうした!監視は何をやっていた!」
「国籍不明の貨物船が浮かんでいるのでそれと誤認したような……」
「そんな詐欺のような真似をあいつがするか!」
清原はようやく椅子に座りなおし帽子を直しながら叫ぶ。実際下方を貨物船が行き来していたのは事実だった。だがレーダーにはそれとは別の三隻の高速駆逐砲艦の姿を映していた。
「慢心があったか……」
搾り出すようにして清原は言葉を吐き出した。周りの参謀達も明らかに動揺した様子で拡大される高速艦の動きに目をやっていた。
「艦載機は戻せんのか?」
「いや、今戻せば中央は完全に抜かれてこちらは丸裸だ」
「だがここで打撃を受ければ立ち直れんぞ」
口々に叫ぶ参謀達。清原はそこで初めて彼等がまるで役に立たない存在だと言うことに気づいた。
「左翼は……羽州艦隊はどうなっている!」
清原の言葉にオペレータが左翼の状況をモニターに映す。そこには明らかに苦戦中の安東のアサルト・モジュール三式の姿が映っていた。
「終わったな……」
あたりに聞こえないようにつぶやくと清原は視線を落とした。