動乱群像録 150
『弾切れ!帰還する!』
別所の叫びに明石はにんまりと笑った。敵影。明らかにその俊敏で的確な機動は『胡州の侍』安東貞盛のものだった。目の前でそれを見れば明石の闘争本能に火がついた。
『時間を稼ぐだけでいいぞ!』
退却のために大量のチャフと指向性ECMをかける別所の機体に変わり明石がムカデのエンブレムの前に立った。
『これで勝てれば大金星やな』
自然と笑みが浮かんでくるのが明石にも分かった。現在魚住は羽州艦隊に同調して動いてきた越州分遣艦隊のアサルト・モジュール群と交戦中。ロングレンジ仕様の機体の黒田が出てくる心配も無い。
「ワシの名前も上げさせてもらいまっさ!」
そう言うと早速レールガンを投げ捨てて毒々しい赤い色の安東の三式に斬りかかる。まるでそれを待っていたかのように安東もライフルを投げ捨て剣を抜いた。
『なかなか興味深いな!君は』
敵からの指向性通信が割り込んでくる。ヘルメット越しに見えるのは明らかにきつい目つきが特徴の安東貞盛陸軍大佐その人だった。
「ありがとうございます!認めてくれはったんですね!」
安東に上段からの一撃を受け止められながら明石が叫ぶ。だがそこには余裕の表情の安東がいるばかりだった。
『いやあ、退屈はしないがまだまだだね』
今度は連続で繰り出される安東の突きを受け止めざるを得なくなる。一気の攻撃に明石は思い切り歯を噛み締めて耐えた。
『筋がいいが実戦を知らない……君の名は?』
「明石清海言います!」
『坊さんか……それにしては思い切りがいいな!』
「生まれは関係ないんとちゃいますか!」
一気に距離をとると明石は安東の赤い機体をにらみつけた。まだ背後では明石の部下と安東の率いる幼年兵の戦いが続いていた。