動乱群像録 136
「動かなければいいんです」
その小見の言葉に一同はただ黙り込んだ。
「動かない?」
佐賀の不愉快そうな顔に対して小見は癖の有りそうな目つきで上官を見上げていた。
「そうです、動かなければいいんです。我々はそもそもどちらの味方なんですか?清原さん?いや、彼には切れ者の安東と言う切り札がある。その他大勢としてしか見ていませんよ。一方赤松君は?あの人だって我々を信用しているわけではない。むしろ敵視しているんじゃないですか。軌道上のコロニーで清原さんの軍の補給を担当したのは事実ですから」
ここまで話が進んだ時点でどの指揮官達も目を伏せていた。先延ばしに結論を延ばしていった結果、どちらの軍からも蝙蝠扱いされる状況になる。予想のケースの中でも最悪の状況だった。
「じゃあ動かなければさらに我々の状況は悪化するんじゃないのかな」
腕組みしていた恰幅のいい大佐の言葉に小見は大きく頷く。
「悪化しますね」
「なに?それじゃあ意味が無いじゃないか」
いらだったような佐賀の言葉。それに大して立ち上がった小見はほくそえんだ。
「そもそも選んでどちらかに着くことができる状況は過ぎたんですよ。今からでも参戦可能な艦船は我々も多数持っているのは事実ですよ。でもそれをどちらかの陣営に参加させたところで戦いが終われば我々が負けた軍とつるんでいたと言う話は出てくる。そんな戦いに部下を危険に晒すのが指揮官のすることですか?」
小見の最後の言葉に指揮官達はようやく気づいた。
清原が勝てば佐賀の糾弾の先鋒に立つのは安東貞盛となる。彼は根っからのパイロット。無駄に部下の命を損なえば自分達の立場がなくなるのは明白だった。一方赤松は部下思いで知られる猛将である。無駄な戦いをするとなればどういう報復人事を食らうことになるか分からない。
「なるほど、部下の命のためか……軌道上に上がった清原君を支援したのも無用な混乱を避けて部下の命を守った……と?」
そこまで佐賀が悟るようにつぶやくと小見は大きく頷いた。
「そうです。人命を優先し、無益な戦いを避けるために軌道上の清原さんの部下達を助けた。そして現在は対立する二派の暴走を防ぐために我々はここにいる。それが一番適した言い訳ですよ」
小見の言葉を聞きながら佐賀は何度と無く大きく頷いた。