動乱群像録 134
「それにしても……」
参謀の言葉にすっかり気分を害したと言うように赤松が振り返る。その言葉を発した参謀もそれを察して慌てて手を振り回した。
「佐賀の泉州艦隊が気になるものですから……」
その言葉は誰もが予期していた内容だった。赤松も満面の笑みで参謀達に目を向ける。
「佐賀さんか?あの人にそれほどの度胸があるわけないやん。たぶん今頃は必死になって清原さんに助命嘆願でもしとるんちゃうのん?」
その言葉にブリッジは沈黙した。佐賀の艦隊は陸軍部隊とはいえ艦大戦のできるだけの艦を保有し、多量のアサルト・モジュールを保有していた。
「なに静まりかえっとるん」
赤松はそう言うがすでに泉州艦隊が南極基地の情勢を手にして全速力でこちらに向かっていることは誰もが知っていた。
「佐賀少将の艦隊。甘く見るべきではありませんよ」
参謀の一人がつぶやくと『播磨』のブリッジは急に凍りついたような雰囲気に取り囲まれた。
「知らんのやな」
赤松のつぶやきに誰もが静かに耳を澄ます。
「佐賀の旦那。あの人に歴史をどうにかできるような度胸は無いで。流れるまま、流される。所詮はあの御仁はそこまでの人や。気にすることもないやろ」
「ですが……」
「なんやねん。ほんまに口だけは達者やな」
同じ参謀の言葉を聴いて明らかに不機嫌に答える赤松。
「佐賀の旦那は動かん。間違いないて」
赤松の言葉に誰もが不安を隠しきれない状況で彼を見つめていた。