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動乱群像録 131

「しかし皮肉なもんだな……」 

 すでに一杯飲みきった別所が一升瓶に手を伸ばす。甘みと粘り気のある大吟醸酒がそっけない湯飲みに注がれるのは少しばかり残念に思う明石だが、今の時点でそんなことを口に出す気はさらさらなかった。

「戦争で人生がおかしなってしもたワシ等が戦争で主張を通す。矛盾と言うたらええのんか……」 

「矛盾だろ。まあ世の中そんなもんさ」

 軽くそう言うと魚住は別所の置いた酒瓶を手にして自分の湯飲みに酒を注ぐ。

「まあ矛盾は矛盾だが、それでも俺達は部下の連中に前の大戦の狂気を味合わせたくないのが本音だからな」 

 別所の言葉に明石と魚住は大きく頷いた。

「ワシ等で終わりにしようや。こんなおかしな世の中は」 

 そう言うと明石は一息で残った酒を喉に流し込む。

「なんだよ、タコ。もう少し味わえよ」 

 魚住が苦々しそうな表情で明石の置いた湯飲みに酒を注いでいた。明石は頷きながら別所を見てみた。別所はのんびりとラッキョウをつまんでいた。そして視線が自分に集まっているのに気づくと仕方が無いと言うように酒を飲んだ。

「結局俺達はこう言う世代なんだな。清原さんの所でも同じような境遇の面々が酒でも飲んでいるだろうな」 

「そうだな。損ばかりしていた世代と言われても仕方がねえや。あの時は鉄砲玉扱い。今度は中間管理職の悲哀だ。なんとも気が休まったことなんてないしな」 

 別所と魚住の言葉に明石は頷いていた。彼等以外誰もいない食堂。たぶんこれからは戦時用の食料の配給が行なわれるばかりで料理と呼べるものが食べられなくなるのは分かっている。機能を失うだろう食堂を眺めてみると明石も戦線が近いことを感じた。

「まあ、今日は飲もう。明日からは本当の戦争だ」 

 別所はそう言うと空になった湯飲みにたっぷりと酒を注いだ。


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