動乱群像録 128
「そうだ。池中佐」
つぶやくように静かに漏れた醍醐の言葉に昌重は伸びをした。
「あのトレーラーの面々は俺に引き取ってもらうためにつれてきたんだな?」
醍醐の言葉に静かに昌重は頷いた。
「死ぬのは池の一族郎党だけで十分ですから。それにその連中にも後に続いて国を支えて欲しい人物も多い。ですから彼らを無理に眠らせて連れてきました」
「そうか……」
再び考え込むようにして昌重に背を向ける醍醐。
「司令……ご決断を」
隻眼の参謀が急かす。その言葉に馬加は静かに醍醐を見上げた。
「さすがに君を父親の元に返すわけには行かないな……」
醍醐はそのままでつぶやく。参謀達は歓喜の目で昌重をにらみつけた。
「では、せめて最期は切腹することをお許しいただきたい」
昌重は覚悟を決めたようにつぶやく。テントの上空を飛ぶ反重力パルスエンジンの独特の爆音が響き渡る。その不可思議な雰囲気に思わず醍醐は振り向きざまにニヤリと笑った。
「それもできないな。今は25世紀だぞ」
そう行って醍醐はそのまま隣に置かれていた軍刀を手に昌重に歩み寄った。参謀の誰もがそれが抜き放たれて昌重に突き立てられるだろうと目をそむけた。
醍醐は昌重の隣で剣を抜くとその刃紋をゆっくりと眺めた。上品に輝いてはいるが、新刀であり一人として人を切ったことの無い澄み切った刀身がテントを照らすライトにゆれる。
「覚悟はいいかね」
そんな醍醐の言葉に大きく頷く昌重。醍醐は大きく軍刀を振り上げて昌重の首を撃ち落そうと構えた。