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動乱群像録 124

 廊下を過ぎる。明石の巨体は目立つので旗艦『播磨』で彼のことを知らない人物はいない。通りすがる艦船クルーの敬礼を受け流しながら少し離れたシャワー室に向かった。

「隊長!お先失礼します!」 

 すでにシャワーを終えた部下達の最後の一人が声をかけてきた。

「ああ……すまんが着替え持ってきてくれへんかな?執務室のテーブルの上にあるさかい」 

「了解しました!」 

 明るい声で新人パイロットの中でも有望な小柄な曹長が走り去っていく。明石はそれを見送ると湯気に煙るシャワー室に入った。シャワー室は半分が改装中で使用ができなかった。先の大戦で明石くらいの年齢の男性は人口に占める割合が極端に低下していた。事実男子のみの入学資格だった高等予科学校はすでに共学化されている。ブリッジクルーには三人の女性士官がいた。そして中隊長付きの従卒として正親町三条楓曹長が明石に着いていたことからもシャワー室の半分を女性用にしようという軍の方針も理解できることだった。

「貴族……か……」 

 パイロットスーツを脱いでシャワーの湯が頭から流れ下るのを感じながら目を閉じて明石は考える。

 寺社貴族の次男坊として生まれた自分。そしてそのまま貴族の誇りなどを教え込まれてその体制を守るために身をなげうつつもりで飛び込んだ特攻隊。だが出撃を待たずに終戦を迎え、居場所を求めて闇屋になった自分。多くの闇屋は現金しか信用しなかった。その時には定期的に貴族年金が下りる明石はその現金を使ってきわめて有利な条件で物資を仕入れ、法外な値段で食うや食わずの人々から金をむしりとることに平然としていられた。自然とそのうまい取引作法と特攻崩れの度胸のよさを買われて闇屋の元締めの片腕になったのも半分はその貴族の特権があったからだった。

 目に染みるボディーソープで剃り揚げられた頭を洗いながらそんな時代を思い出してつい噴出してしまった明石。

 所詮どこまで言っても貴族制が崩壊しない限り自分の値打ちにはその貴族だからと言うやっかみが付きまとうことになる。兄嫁や実家の寺の面々に古い制度に従って頭を下げて生きるのが嫌で実家を飛び出したはずが結局頼っている根源が貴族と言う肩書きだったことに気づいて明石はどうにも情けない気分になった。

「ワシがワシであるために戦わなあかんのやな」 

 自分自身に言い聞かせるようにして明石は頭から熱い湯を景気良くかぶっていた。


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