動乱群像録 120
「なんで佐賀君は泉州の自衛軍に声をかけない!」
清原は各艦の司令を集めた会議で開口一番にそう叫んだ。急ごしらえの合同軍とあってその言葉に向ける指揮官達の反応はさまざまだった。
同調して頷くのは半数にも満たない。まるで当たり前だと言うように冷笑を浮かべるもの、困ったような表情で周りを見回すもの、そして大きくため息をつくもの。否定的な反応に清原は深呼吸して周りを見渡した。佐賀の貴下の胡州軌道コロニー軍の司令達は多忙と言うことで出席すらしていない。その空いた席の隣には清原が信頼を置く羽州艦隊の指揮官である秋田義貞の姿があった。
「拙いですね。このままではアステロイドベルトが戦場になります。一応宇宙に対応できる装備はありますが、あちらは艦隊戦のプロとして知られる赤松さん。苦戦は必至になりますよ」
「それは……分かっているんだ。だけどなんでその入り口のコロニー自衛軍に影響力のある佐賀君がここにいないんだ!」
その言葉に再び司令達から失笑が聞こえた。
多くの司令達は清原の大義、烏丸公を報じる為にこの場にいるわけではなかった。多くは貴族制の維持が部下達の生活にかかわると言うことでとりあえず参加した者が多い。他にも毒舌で知られる西園寺基義に一泡吹かせるためや海軍に恨みがある陸軍指揮官などが集まっていた。
『これは勝っても意味が無いな』
秋田は周りを見回しながらそう思っていた。事実一番の精鋭部隊である自分達が下座に置かれ、出席の見込みの無い佐賀の席が上座の方に置かれていることに苛立ちを感じていた。
「清原君。一度佐賀君には申し入れをしておくべきじゃないかね?」
ざわめく中で堂々と立ち上がり口を開いたのは烏丸清盛陸軍大将だった。烏丸家の分家の出であり、子の無い烏丸頼盛に次女の響子を養子に出すという話はこの場にいる誰もが知っている話だった。
「それはどうですかね。下手に手を出せばあの御仁のことです。弟からの催促に乗っかって我々を攻撃してくるかもしれませんよ?」
誘いのつもりで秋田の吐いた言葉に指揮官達はざわめいた。だが烏丸は表情を変えない。そのままテーブルの上のコップの水を飲み干すと静かに話しはじめた。