動乱群像録 118
「いつまでこうしてりゃいいんだよ」
パイロットスーツの女性が目の前の盆栽を弄っている中年男性に声をかけた。
「そんなことを言っても仕方が無いじゃないの」
その隣で静かにお茶を飲んでいた和服の女性。その手元には薙刀が置かれていてその状況が緊迫したものであることを周りの近衛師団の兵士達にも思い知らせた。胡州帝国帝都、近衛師団駐屯基地。すでに兵士達とそれにかくまわれている西園寺家の人々が篭城を始めて一週間が過ぎていた。各地で黙って盆栽を弄っている宰相西園寺基義公爵支持派の部隊が決起したが、彼等は帝都ではなく反対側の南極基地攻略へと向かっていた。帝都は現在も西園寺排斥派の部隊に占拠されていたが、西園寺支持派のゲリラ的反撃と士気の高い近衛師団に攻めあぐねているのが現状だった。
「赤松君が勝つかどうかだろうな……」
ようやく覚悟を決めて切った枝がどうにも形が決まらないことに気づいてうなだれながら基義がそうつぶやいた。
「勝つのか?じゃあ負けたらどうなるんだよ!」
叫ぶパイロットスーツの女性は西園寺要。基義の一人娘でそのパイロットスーツには胡州軍高等予科学校の三年生であることを示す徽章がつけられていた。
「まあ……縛り首か斬首か……康子さん。どれにします?」
「そうね……斬首は腕がいい人ならいいけど」
お茶を飲み終えて留袖のすそをそろえながら薙刀の女性、基義の妻西園寺康子は淡々とそう答えた。
「死ぬ気かよ二人とも!」
地団駄を踏む要を気にしながら一人の連絡将校が走ってハンガーの奥に畳を敷いて暮らしている西園寺家の人々の前に頭を垂れた。
「閣下。準備ができました」
「そうか」
士官の声に要を無視するようにして基義は立ち上がった。
「どこ行く気だ?親父」
「ちょっと工作をね」
忌々しげに父を見上げる要に一瞥するとそのまま基義は連絡将校の後に続いてアサルト・モジュールの並ぶハンガーの出口へと向かった。