動乱群像録 117
「仕方が無い。受けない理由はないからな」
そう言うと立ち上がる醍醐。誰もその決断に異を唱えるものはいない。
「池君を呼んでくれ」
入り口に座っていた連絡将校がすぐに端末を起動する。参謀達も仕方が無いというように黙り込んだ。
「それでは……もし投降を取りやめると言い出した場合には?」
隻眼の参謀の言葉に醍醐は遠くを見るような顔をした。
「仕方が無いな。赤松君には本当に申し訳ないことになる」
そう言った時に仮設指揮所の薄い扉がノックされた。
「入りたまえ!」
醍醐の声につられて警備兵に挟まれるようにして再び池昌重が現れる。
「結論はどうなんでしょうか」
許されてもいないのに末席の椅子に腰掛けながら昌重がつぶやく。
「見て分かるんじゃないか?」
挑戦的な笑みを醍醐は浮かべた。そこで昌重は大きく頷いた。
「さすが醍醐将軍は話が早い。早速……」
「まだなんとも言っていないけどな」
醍醐は満面の笑みの昌重を見ながらそうつぶやいた。昌重はその言葉に一瞬顔面に満ち溢れていた笑顔が途切れた。
「と……申しますと?人質でも取ろうと言うんですか?」
再び昌重の顔に笑みが戻る。元からそのことは覚悟してきている。醍醐には昌重の態度がそういうものに見えていた。
「つまらないことをするつもりは無いよ。ただこれだけは伝えてくれ」
そう言うとゆっくりと醍醐は立ち上がって昌重をにらみつける。
「勝手に死ぬな。まだこの国には人が必要なんだとな」
突然の醍醐の言葉に昌重はうつむいて自分の表情をどう作ればいいのか迷っているように見えた。