動乱群像録 116
「それではよろしくご検討ください」
そう言って笑った表情のまま池昌重は頭を下げて立ち上がった。テントを出て行くその後姿に参謀達の判断が揺れているのは醍醐にも分かった。
「本気で投降するつもりなのかな」
下座の中佐の参謀の言葉に全員がうなだれる。
「投降するなら今は遅すぎる。どうせ時間稼ぎだ」
「しかし時間稼ぎなら宇宙港施設の破壊をしたほうが手っ取り早いと思いますが」
「それはできないだろ。既存のインフラを破壊すれば民衆の支持を得られなくなるぞ」
「どうせ貴族主義者の行動だ。はじめから民衆の支持などあてにはしてないんじゃないか?」
参謀達の言葉が続く中、醍醐は黙って目を閉じていた。片目の大佐。アフリカ戦線の修羅場で失った目を隠してうつむいていた彼が静かに周りを見回す。
「池司令には本格的な軍事衝突は初めてのはず……」
彼の一言に周りの参謀達は口をつぐんだ。多くはアフリカ戦線やゲルパルト陥落のころから醍醐の部下として活躍してきた猛者達。政治的やり取りは別としてその戦歴は誰にも負けないと自負している彼等はじっとその時も最前線までこまめに視察に来て適当な助言をする醍醐の姿を思い出し凝視する。
「無駄な戦いは避けたい。基地は無傷で手に入れないと意味は無い。たとえ突入してもすべての施設が破壊されるなら意味は無い」
そう言うと醍醐は再びうつむいた。
「もう俺等は負けたのかもしれないな。烏丸派の決起を甘く見ていた俺の失態だ。とりあえず池に花を持たせるしかないだろう」
醍醐の顔が情けないと言うようにゆがむ。そしてそのまま唇を噛み締めて視線をテーブルに落とした。
「では申し出を受けると?」
隻眼の参謀の言葉にただ静かに首を縦に振る醍醐だった。