動乱群像録 113
捕虜になっても平然と笑みを浮かべる少女に安東は彼の父の親友嵯峨惟基の顔を思い出す。そして予科学校時代、自分が買った他校との喧嘩に勝手に先回りして出かけて行っては一人で片付けてくる時の満面の笑みを思い出していた。
「俺に難しい願い?この戦いを終わらせることか?じゃあそれは無理だ」
そう答えるしかなかった。すでに胡州での軍事衝突が始まっていると言う情報をつかんでいる安東。二つに割れた国を一つにまとめるには軍事衝突で勝者を決めるしかない状態まで来ている事は彼もわかっていた。
「違います」
「違う?」
楓の笑みがまぶしく安東の目の中で広がっていくように見える。それが交渉ごとでは嵯峨や赤松のようには行かない自分の弱点を見透かされたようで気まずい雰囲気になった。
「清原准将に会わせていただきたいのですが……」
少女の言葉に安東は呆れた。今更安東が彼女を清原に会わせたところで状況は変わるとは思えなかった。そしてそのことはこの喰えない親友の娘も分かりきっているはずだった。
「それをしてどうなる?」
「どうにもなりませんね……」
再びの沈黙。安東には少女の真意がはかりかねた。
「でも戦後を考えると大きな意味があると思いますよ。清原准将はこの戦いで終わりにするにはもったいない人材ですから」
まるで宰相でも気取るかのように平然と言ってのける楓。ただ呆れながら安東は少女を見つめていた。
「それは逆じゃないかね。現状の戦力では第三艦隊には分が悪い状況だ。地上の醍醐さんの部隊は間違いなく間に合わない」
「確かにそのとおりですね。だがそうなると赤松様や西園寺卿はどうなるでしょうか?」
「当然今回のことの責任を取られて身柄を拘束されて裁判にかけられるだろうな」
決まりきったことを言われて憮然としながら安東が答える。だが楓はその答えがあまりにもひねりがないというように笑みすら浮かべて安東をにらんできた。