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動乱群像録 104

「それにしても良いんですか?もう二ヶ月ですよ」 

 鏡の前でメイクをしている男。まるで役者か何かのようだが、ここが高級ホテルの一室と考えるとその回りのメイクアーティスト達が非常に不自然に見えた。そしてその男に良く似た男がソファーに腰掛け着流し姿で新聞を片手に牛乳を飲んでいる。一度カップを置くとその男、嵯峨惟基こと遼南皇帝ムジャンタ・ラスコーは静かに伸びをした。

「すまねえな。俺もまずいとは思っているんだけど……しばらくは頼むことになりそうだわ、影武者」 

「すまないと分かっていたら何で軍を動かさなかったんですか?」 

 影武者役の弟。兄のゆるい目元を演出するべく影を作っているアーティストを気にしながらそう言った。嵯峨は仕方がないというようにもう一度カップを手にして静かに牛乳を口に含む。

「軍を動かすのは拙いからな。アンリの馬鹿もそうなれば公私混同だと騒ぎ始める。それに下手して第三次遼州大戦勃発なんてことになったら大変だろ?」 

 そう言いながらいつもの自虐的な笑みを浮かべる嵯峨。仕方がないというように弟は静かにため息をついた。胡州の混乱が熱い内戦と言うもので象徴されるとすれば遼南の内部は裏に隠れた権力闘争と言う冷たい戦争と呼べるような状態にあった。

 第二次遼州戦争では胡州や外惑星のゲルパルト帝国と同じ枢軸側に属した遼南帝国だが、大戦末期にクーデターを起こしたガルシア・ゴンザレス将軍が霊帝の贈り名のムジャンタ・バスバを追放して実権を握ってから国はいくつもの軍閥が割拠する内乱状態に陥った。嵯峨は内戦末期に北兼軍閥を掌握して人民軍陣営として参戦し、ガルシア・ゴンザレスを倒す為の戦いで大きな功を立てた。その後、人民政府は北天軍閥と嵯峨や彼の右腕の伊藤隼いとうはやと人民委員の派閥に分裂。嵯峨のクーデターで政権は彼の手に落ち、人民政府とは対立関係にあった東海・南都の軍閥も参加しての遼南帝国が再び立つことになった。

 だがその政権も軍事力の統一ができない状況では不安定だった。嵯峨は非情にも手を打っていく。まずは花山院軍閥が胡州の烏丸派と気脈を通じていることを口実に攻撃して攻め滅ぼした。そして南都軍閥についてはその首領のアンリ・ブルゴーニュ候を宰相に任じて懐柔して遼州の軍事系統を一つにまとめることには成功していた。アンリ・ブルゴーニュは嵯峨の説く遼州星系全体を統括する同盟政府の建設にはあまり積極的では無く、現在でも両者の間には隙間風が吹いているとささやかれることが多くなっていた。

 そんな状況でバスバ帝の百人を超える愛人の一人の子である弟の吉川俊太郎が兄の影武者を勤めているのは非常に微妙な状況だと嵯峨自身も分かっていることだった。


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