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動乱群像録 102

「すべてはお前に任せる」 

 安東貞盛はそう言うとヘルメットを被る。彼の率いるのは胡州陸軍第一強襲揚陸艦隊。主力は搭載されたアサルト・モジュール三式。どれも近年の慢性的な国家予算の不足から稼動する機体は多くは無かった。そんな彼が見つめた先のモニターの中には気の弱そうな初老の男の影が映っていた。

 それは艦隊参謀の秋田義貞大佐。安東家の一族衆でも長老格になる男だった。

 先の大戦で安東家の抑えるコロニー群羽州は大きな被害を出した。三度の直接攻撃と潜入部隊による破壊工作によりその人口の半分を失い終戦後の胡州での発言力は著しく衰えた。そしてそのことを憂える若い将校達が安東のところに集まったもの自然な出来事だった。国家予算規模に見合わない巨大な軍組織の縮小は彼等若手の将校達の身分を次々に奪い去った。羽州の修復中のコロニーには失業した軍人達が何をするわけでもなくたむろしている様をいつでも見ることができた。その光景は安東にとって屈辱以外の何物でもなかった。

 烏丸頼盛には確かに羽州相続に辺り尽力してくれた大恩があり、清原には軍へ復帰できた恩義もあった。それだけが安東をこうして親友赤松忠満討伐に向かわせたわけではなかった。この揚陸艦に乗る若いパイロットや技師達の生活。それを守ること。それが一番に安東に課せられた義務だと安東は思っていた。

「ですが貞盛君。本当にいいのか?」 

 一族衆の長老の顔に戻った秋田の一声が響く。その弱気な言葉に安東は激怒しそうになるのを無理に抑えるために深呼吸をした。秋田は過激な貴族至上主義を唱える清原に接近する安東を快く思っていないことは知っていた。いつかは胡州の貴族支配は瓦解する。それは誰もが予想していることだった。強大な軍事力で遼州星系に覇を唱えていた二十年前くらいを境に胡州の経済状況は悪化した。アステロイドベルトの資源は次第に枯渇し始め、胡州本星の開発も資本の投下をためらう東和に国家体制の矛盾を指摘されて行き詰まっていた。そんな状況でのゲルパルトとの対地球戦争はそこにわずかに残っていた体制を支えるエネルギーすら胡州から奪い去ることになった。

 安東も目端の利く秋田なら醍醐の地上部隊に協力するだろうと思い込んでいた。そんな秋田から揚陸艦隊の提供を申し出られたときは少しばかり面食らうことになったほどだった。

『結局彼も羽州軍人だったと言うことか』 

 そう思うと静かに秋田の映っていたモニターを消してヘルメットを被って背後に立つ巨大な赤い三式に向き直った。


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