動乱群像録 101
「ですが……敵艦隊を迂回するとなるといつ着くか分かりませんよ」
楓の言葉はもっともな話であるが明石は少しばかり赤松の表情から仕掛けがあることを見抜いた。
「正親町三条曹長。君の専用機は清原派の艦隊には連絡してあるから。攻撃は無いと思うた方がええな」
そんな赤松の言葉に楓の顔が青く染まった。
「僕が……いえ、自分が女だからですか?」
赤松も明石も大きくため息をつく。しばらくの沈黙。ようやく息を整えた赤松が口を開いた。
「それもあるのは事実や。そして次には嵯峨の家督を継ぐからと言い出すつもりやろ?それもあっとる。そやけどそれ以上にこの手紙には意味があんねん。私信をワシが出すわけにも……これはできれば烏丸はんの手の元で開封された後に貴子はんの手に届くのが理想やねん」
「はあ」
捕まって手紙を取り上げられて読まれることが本文の手紙。そう知らされて意味も分からず楓はうつむいた。
「正親町三条の。親父はああ言っとるが実際撃ち合いにならん言う保障はどこにも無い。それ考えたらできるだけ腕の立つパイロットが適任とワシも考えたんや。すまんがこの任務受けてくれ」
隣の上官の明石まで頭を下げてくる。仕方がないというようにおずおずと楓は手紙を手に取った。
「そのまま渡していいんですよね……僕は中身を知らないままで」
「読みたいんか?」
赤松の言葉に激しく首を振る楓。そんな少女の照れる様を見て赤松も明石も思わず笑顔になる。
「それでは失礼します!」
楓はすばやく立ち上がるとそのまま司令室を飛び出していった。
「ああでもせなあいつは死にかねんからなあ」
大きく息をした後の赤松の言葉。明石も頷くばかり。
「戦場はこの一戦に限ったことやないからな。どっちが勝っても遺恨が残る。同盟や地球の介入も想定内や。難しい時代にはそれなりに人がいる。あいつはその素質があるとワシは思うとります」
「そやな」
明石の言葉に大きく頷いた後、赤松はそのままたちあがって執務机に腰を下ろした。