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君だけの青春が、ここにある  作者: 天満川鈴
前章:21年前
9/31

EP09:1996年6月16日「理屈っぽい人は嫌いだよ」

「ところで、出口はどうして俺をここに? もちろん『自己採点させるため』って、わかりきったボケはナシの方向で」


 出口がちっと舌を鳴らす。

 なんとなく、こいつの言動パターンが読めてきた。


「同級生2の話を振ってきたのは井戸の方じゃないか。同志とバレたからにはゆっくり語り合いたかった」


「出口もエロゲー友達いなかったの?」


「ボクみたいにカッコかわいい乙女がエロゲーなんて俗で下世話な趣味を持ってるなどと、どこの誰にカミングアウトできるんだよ」


 まったくその通りだと思うけどさ。


「お前はそれを自分で言うか」


「失礼な、こう見えても化ける時はすごいんだぞ。それこそ同級生2にヒロインとして登場してもおかしくないくらい」


 いや化けなくても美人だけど。

 しかも、その例えはなんだ。

 ツッコミ入れると話が面倒になりそうだからスルーしよう。


「そうじゃなくて。エロゲー談話したいならわさわざ水道橋の専門学校まで来ることもない。霞ヶ関近く……新橋や銀座の喫茶店や居酒屋で十分のはずだ」


 そもそも俺に自己採点させる必要なんてない。


「理屈っぽい人は嫌いだよ」


「あいにく理屈っぽくないとエロゲーは解けないんでな。それに、俺よりお前の方が何倍も理屈っぽいだろ」


 そうじゃなければ、あんなバカげた点数獲れるか。


「よくもボクが気にしてることを」


「だったら言うな!」


 出口がやれやれとばかりに両手を広げる。


「こいつ、本当に合格してるんじゃないかなあと思ったからだよ。素材が良さそうなのは傍らで聞いてるだけでもわかったから」


「アホ大と聞いても?」


「ボクだって、たかだか慶應だよ。霞ヶ関では東大法学部以外全部同じさ」


「そうかもしれないけど、アホ大と慶應は絶対に同レベルじゃないぞ」


 ふう、と呆れがちに息を漏らす。


「学歴と頭の良さは比例すると思うけど、決してイコールじゃない。あんな場でモラハラだの何だの大騒ぎする、どこぞの早稲田さんやお茶の水さんよりはよっぽど賢いよ」


「それは世間智の問題だ! あいつらと一緒にされたくない!」


「山ほどキャリア官僚を見てるボクが言うんだ。信じろ」


 男前な台詞に気圧されてしまう。

 真顔で、きっぱりした口調。

 さっきまでの茶化した感じはどこへやら。

 お世辞や皮肉で言ってるんじゃないことは伝わった。


「わかったよ。ありがとう」


 にこりと微笑で返される。


「もちろんボクの胸にほとばしるエロゲー愛を井戸にぶつけたいのは山々だよ」


「当然付き合うよ」


「でも優先すべきことは優先させないといけない。国家一種は合格しても、官庁の内定獲れなければ合格通知の紙切れ一枚残るだけ。ちゃんと対策練らないとね」


「対策?」


「官庁訪問の。ボクも井戸と同じ訪問者の身にすぎないけど、できることは協力するよ」


「本当に!?」


 出口がニヤリとしてみせる。


「だってアホ大からキャリア官僚なんて、バグがあって攻略不能のヒロインに挑むくらいの無理ゲーみたいなもの。もし攻略成し遂げたら超爽快気分味わえそうじゃん」


 お前は何を言っているんだ……。


 でも本音はとてもありがたい。

 アホ大の俺には、もちろん国家一種受ける友達なんていない。

 情報もほとんど持ってない。

 学生課すら全く頼りにならない。

 徒手空拳で官庁訪問しないといけなかったところに、こんな優秀な仲間ができるなんて。


「じゃあ自己採点終わったからには、これからエロゲー談義?」


 出口がふるふると首を振る。


「いや、その前にやるべきことがある。だけど今日は徹夜明けだし、もう帰りたい」


「どうして徹夜?」


「試験終わったことだしと、解答作った後で先日発売された『下級生』のプレイを始めたんだ。気づいたら、もう夜が明けてて。仕方ないからそのまま官庁訪問へ向かった」


 バカがここにもいた。

 寝過ごした俺よりは上等だが。


「じゃあ、これでお開きか」


「井戸、明日の予定は?」


「夕方五時までゼミ」


「だったら六時に有楽町ビルのルノアールで待ち合わせよう。連れていきたいところがある」


「連れていきたいところって?」


「いいところ♪」


 またかよ。


「はいはい、期待してるよ」


「ボク様みたいな群がる男を切っては捨ての超絶美少女がボケてるんだから、少しはドギマギしてみせるのがエロゲーの主人公じゃないか?」


 このあちこちにツッコミどころを混ぜ込んだ台詞はなんなんだ。

 だったら核心部分に剛速球を投げ込んでやる。


「自分を『ボク』呼ばわりする超絶美少女なんてハードル高くて仕方ないけどな」


 出口がちっちと指を振る。


「『痛い』って言いたいんだろ? わかってるよ、これは虫除け」


「虫除け?」


「普通にしてたらデートの誘いや告白が次から次にで辟易するんだよ。痛い子演じてれば、ボクを飾りとしか見ないチャラ男が近づいてこないからさ」


 確かに「私」だったら、その状況も頷ける。

 呼称で好き嫌い変わるなんて、中身無視して容姿しか見てないのと同じだものな。


「さすが超絶美少女」


「もしボクと付き合えば『エロゲー彼女』という更に高いハードルが待ってるんだよ。『ボクっ子彼女』すらクリアできない男子に用は無い」


「俺にとっては『ボクっ子彼女』の方が『エロゲー彼女』よりはるかにハードル高いぞ」


 しかし出口は無視して続ける。


「大体さ、デートコースというのは本人の嗜好を探って喜んでもらえそうな場所を選ぶものじゃん? 猫も杓子も浦安の遊園地。一人くらい『エルフの本社がある高円寺で同級生の聖地巡礼しましょう』と申し出てくるのがいてもいいんじゃないか?」


 そんな男、絶対いねえよ。

 でも下手に答えると更に続きそう。

 強引に話を戻させてもらう。


「で、『いいところ♪』ってどこ?」


「明日まで秘密。でも井戸にとっては本当に『いいところ』だと思うよ」

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