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7

(さて、帰るか!)


麗華はいつも通り動きやすい服装に着替え、気合いを入れた。

通学鞄をショルダーからリュックに変え、身体に密着させる。

行き帰りの距離では肩擦れは起きないが、念には念を入れる。

長距離行軍する際に困るのは体力的な問題よりも肩擦れや靴擦れである。

それを何回も繰り返して皮を厚くするのも手であるが、女の子だとそうもいかない。

麗華は普通の女の子なのである。


「㎞4分30秒ペースで。」


肩に着けたスマホを設定し、走り出す。

麗華がスマホを使うのは、このときくらいである。

年頃の女の子がそれで良いのかと疑問に思うが、彼女に指摘するような人はまだいない。


「はぁ……はぁ……。」


規則正しい呼吸を繰り返す。

そのとき、ふと路地裏の方に連れ込まれている女生徒を発見した。

一瞬だったため見逃してしまいそうだったが、麗華の動体視力はかなり良い。


(委員長と楓さん? 随分、柄の悪い友達とつるんでるんだなぁ。)


などと笑えない冗談はさておき、明らかに嫌な予感がする。

初めて昼食を食べただけの関係だったが、麗華にとって気に掛ける十分な理由である。

麗華は路地裏の方へと足を進めた。


ーーーー


(どうして、こんなことに……。)


委員長こと春香と楓は路地裏で男三人に囲まれていた。

今日は以前から計画していた獅子堂さんと友達になろう作戦が実行でき、好感触で終わった。

その事を親友の楓と語らい、次の計画の話に花を咲かせていた。

そのとき春香の不注意で男にぶつかってしまう。

男は飲んでいたジュースを溢してしまい、シャツに染みを作ってしまった。

春香は平謝りして、クリーニング代を出すと言ったが男はそれに乗らなかった。

男はいやらしい目付きで春香を見ると、ちょっと付き合ってくれよ、と強引に迫る。

そこで楓が言った一言が良くなかった。


「ちょっと強引なのが許されるのはイケメンだけっすよ。」


そして、タイミング悪く戦慄く男の連れが現れて現在に至る。

春香はなんとか楓だけでも逃がそうと機をうかがっているが、きっかけを掴めずにいた。


(誰か助けて!)


「ねぇ、そこで何してるの?」


可愛い声だった。

でも、その声には優しさがあって強さがあった。

先ほどまで聞いていた声。

麗華であった。


「んだよ、こいつの連れか?」

「随分可愛い助っ人だな!」

「ってか、マビィ。ちょうど一人余ってたし、俺のっしょ。」

「あっ、ずるいっすよ。」

「公平にじゃんけんだ、じゃんけん。」


下品な声が聞こえる。

そんな相談に意味なんてないのに。


「三人共、私がお相手して差し上げますわ。」


麗華は短いスカートでカテーシーを行う。

その堂に入った挨拶が黄泉への誘いだと三人は気付かない。

むしろ、ぐふぐふと興奮した顔をしていた。

そして、三人の男が一斉に麗華に襲い掛かった。


「綺麗……。」


春香は場違いな感想を洩らしていた。

しかし、それはこの状況を見た全ての者が同じ感想を抱くだろう。

男達の手は麗華を捉えることが出来ず、逆にカウンターを貰い地面に伏している。

先ほどの挨拶から始まった突然の舞踏会。

春香と楓は麗華から目が離せなかった。


「これで終わりですね。」


もっと見ていたかったと春香は思ったが、首を横に降り麗華に駆け寄った。


「獅子堂さん!」


春香は麗華に抱き付く。

その手は震えていた。

麗華は春香の背中を優しく叩いて安心させる。

楓はそんな二人をやれやれといった感じで見守っていた。

しかし、そんな安心も長くは続かなかった。


「おいおい、俺の弟達に何しやがる!」


現れたのは身長が2m近い男。

体重は100㎏は優にあるだろう。

麗華は不味いと思った。

さっきの奴らはそこまで身体を鍛えている雰囲気はなかった。

だが、目の前の男は明らかに違う。

隆起した筋肉がそれを物語っている。


「委員長。楓。助けを呼んできて」

「そんな獅子堂さん!」

「ここは獅子堂さんに任せて行くっすよ!」


渋る春香を楓が強引に連れていく。

状況判断が上手く出来ているようだ。

一人残った麗華に相手が飛び掛かる。


「おらぁっ!」

「!?」


単純な右ストレートをギリギリでかわし、伸びきった腕の関節付近。

ビリっと来る場所、ファニーボーンを膝と肘で挟む。


「うおっ!……だが、効かねぇ!」


そのままラリアットをかまし、麗華を吹っ飛ばす。

麗華は受け身をとったので、ダメージはない。

お互いにダメージはないが、麗華は受け切れなければ負ける。

じり貧になるのは目に見えていた。

そして、数十分の攻防の末。

麗華の予想通りの展開になった。


「はぁはぁはぁ。」

「ここまで俺の攻撃をかわすなんて何者だ? ただのお嬢ちゃんじゃねぇな。」

「名乗るほどの者ではありません。」

「へっ、その余裕。ベッドでなくしてやるぜ!」

「兄貴!」

「やっちまえ!」

「ちっ!」


先ほど倒した男達が麗華の両足を掴んでいた。

油断していた麗華は男の拳を正面から受ける。


「ぐうっ!」


踏ん張るようなことをせず、力を抜いた状態で受ける。

麗華はブリッジするような体勢になり、地面に背中をぶつけた。

あまりの勢いに足を掴んでいた男達の手は外れる。

麗華は薄れいく意識の中で、最後に男へ蹴りを繰り出していた。

背中のバウンドを活かしたがむしゃらな蹴りだ。

捨て身なサマーソルトだった。

だが、その蹴りは男の顎を捉え、遥か後方へと吹っ飛ばした。

クロスカウンターのように二人は意識を手放した。


ーーーー


「兄貴!兄貴!」

「起きてください!」

「兄貴の好きなチュリオありますよ!」

「ぐっ……頭がいてぇ。」


三人の弟達の呼び掛けにより男は意識を取り戻した。

三人の後ろには見目麗しい少女が倒れている。

先ほど自分と相討ちになった少女だ。

肉体的アドバンテージは明らかに自分にあった。

しかし、結果は弟達の手を借りての相討ちだ。

男は立ち上がり、少女に触れようとした瞬間。


「見つけた。」


声が聞こえた。

男は底冷えするような声がした方向に振り向く。

そこには仮面の男が立っていた。


「なんだ!てめぇは!」

「おい、やめろ!」


男の注意も虚しく、向かって行った三人の弟達は力なく倒れた。

何をしたのか。

何があったのか。

何も見えなかった。

男は震える足で立ち上がり、仮面の男に向かった。


「寝てろ。」


まるで幻のようだった。

そうだ。

あの仮面はあれだ。

少し形は違うがファントムだ。

ファントム・オブ・ジ・オペラ。

どうやら、俺は怪人に負けたらしい。

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