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6

「あの、獅子堂さん……一緒にご飯食べませんくぁ?」

「えっ、えぇ別に構いませんけど。」


いきなり話しかけられて麗華は驚いたが、昼食を誘ってきた相手が噛んだのにも驚いた。

急に鳥のような声を上げられれば仕方ないだろう。

それに麗華には人と関わってきた経験がほとんどない。

断り方もわからずにその誘いに乗ってしまった。

ボロを出さないか心配である。


「良かった……それじゃ、机を付けるね。」

「おっ、何やら面白い組み合わせだね。委員長と獅子堂さんのカップリングなんて。」

「どうせなら、あなたもご一緒しませんか?」

「えっ、あたしも? ははっ、いいのかなぁー乗っちゃうぜ!そのビッグウェーブに!」


麗華がその女生徒を誘ったのは会話が得意そうだったからだ。

それに委員長と呼ばれた彼女とも仲が良さそうだし、適当に相槌を打つ程度で乗り切れるだろうという思惑があった。


「じゃあ、食べようか!」

「うん、いただきます。」

「……いただきます。」


机を合わせ、手を合わせる。

二人の前には女子らしい可愛いお弁当が置いてある。

そんなので足りるのかと麗華は疑問を浮かべるが、口には出さない。

麗華も二人に倣って弁当箱を開けた。


「すごっ!それって獅子堂さんの手作り?」

「綺麗な色合いですし、健康にも配慮されてます。」

「えっ、えぇ。自分で作った方が好きなメニューに出来るし、味も自分好みに出来るから。」


マジマジと弁当箱の中身を見られて少し恥ずかしい。

それに女子にしては量が多かった。

部活をやっている男子生徒くらいの量がある。

そのことには触れられていないが、彼女達が驚いた理由のひとつになっているはずだ。

これに購買で買ったパンを出せば引かれると思い、鞄から取り出せずにいた。


「はぁ……凄いなぁ、その美貌で料理も出来るなんてチートよチート。」

「そうですね、これならすぐにお嫁さんになれますね。」

「あはは……。」


麗華は乾いた笑い声を上げた。

実は同じことを母の麗子に言われたからだ。

男はまず胃袋から掴むという言葉があるように。

炊事、洗濯、家事が得意だと女子力があると持て囃される。

研究所では味気ない料理しか出されなかったために自分で料理をしていただけである。

もっとも料理をするような人は他にいなかったので、あの場所ですら浮いていたのかもしれない。

麗華は自嘲気味にクスッと笑った。


「あっ、笑いました。」

「本当だね。あたし達の女子力の低さに笑ったんだね……。」

「あのね、楓ちゃん。私のお弁当も手作りよ。」

「はっ、謀ったなぁ委員長!」


そのやり取りに麗華はまた笑ってしまった。

思えばこうやって一緒にご飯食べることなんて今までになかった。

油断をすれば明日にはいなくなっているかもしれない。

そんな人たちに会話を楽しむ余裕なんてなかったのだ。


「君たち面白いね。」

「おっ、勝手に株が上がってる。信用の成行注文ってやつだね!」

「楓ちゃん、意味わかんない例えだよ、それ。」

「そんなことより獅子堂さんの口調が畏まってないのが新鮮なのだぜ。」

「そうだね、その方が自然で好きかも……。」

「うん、わかった。なるべく砕けて話すようにするよ。」

「ちょっと少年ぽくて、良いかも。」

「難攻不落と呼ばれた委員長は百合なのかショタコンなのか心配なのだぜ。」

「楓ちゃん、怒るよ?」

「ごめんなさい!」

「二人は仲が良いんだね。」

「腐れ縁ってやつ?」

「家も近所でよく家族ぐるみの付き合いがあったからなのさ!」

「ふふっ、僕もそんな人がいたら良かったな。」

「ん?僕?」

「はわわ、やっぱり少年っぽい!」

「ご、ごめん。忘れて!」


油断して素の自分が出てしまった。

麗華の中身が実は男などと噂が流れてしまっては研究所の奴らに気付かれるかもしれない。

そんな間抜けなことは許されない。

せめて、あいつらに対抗できるだけの力を得るまでは。


「慌てる獅子堂さんも可愛すぎかよ。」

「同性から見てこれだと異性だと……。」


二人は僕と言ったことを気にした様子はない。

今後は気を付けないと、と麗華は肝に命じた。


「そういえば、獅子堂さんって徒歩で学校に通ってるの? 昨日走って帰ってるの見たのだけど。」

「かなりのスピードだって陸上部の奴らが騒いでたよ。部活には入らないの?」

「部活は……考えてないかな。」


いち早く強くならなければいけないのに、スポーツにかまけている暇はない。

スポーツを馬鹿にする気は毛頭ないが、生き死にの前ではどうしても優先順位が落ちる。

誰だって死にたくないのだ。

理不尽を前に屈したくない。

全てを投げ出して諦めたくない。

今の麗華には自分だけでなく、麗華自身の命もある。

他人の命を背負う重圧の前では時間の無駄は許されない。


「うちの剣道部とか強いらしいよ。あと柔道とかも。」

「今の警察の師範とかも、うちの学校の卒業生らしいですし。」

「へぇ、それは。」


麗華は少しだけ興味が沸いた。

天才の前では凡才の努力など無意味だ。

研究所にいたとき、自分は天才だと思っていた。

だって、死ななかったから。

しかし、それも井の中の蛙だと知った。

努力だけでは、安っぽい才能と自信だけでは、絶対に越えられない壁。

その壁を壊すには強い人間の側にいて研鑽を積まねばならない。

誰にも師事してこなかった。

好敵手がいなかった。

それが敗因だったのかもしれない。


「あの獅子堂さん? 別に無理して部活に入る必要はないよ。」

「あははは、困らせちゃったかな。失敗失敗。」


二人は麗華の真剣な表情に気圧されていた。

地雷を踏んでしまったと謝る楓。

近付き過ぎたと反省する委員長。


ぐー


そのとき、可愛いお腹の音が鳴った。

二人はお互いに顔を見合わせ、自分ではないとアピールする。


「ごめんなさい。早く食べましょうか。」


麗華が恥ずかしそうに言った。

一気に空気が変わって安心した二人。

麗華も少し持て余していたので助かったと思った。

結局、鞄に入れていたパンも食べて麗華の腹の虫は治まったのだった。

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