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「うわぁぁああああ」


叫び声と共に目が覚めた。

慌てて胸の辺り触ってみる。

ふにっ。

穴は空いていない。

空いていないが。

ふにっ、ふにっ。

逆に柔らかいものが付いていた。


(これは……生き返る為の代償か? 腫れているのかもしれない)


ひとまず呼吸を落ち着けて、周りを見渡す。


(白い清潔感のある部屋。病室のようだ……)


それならば生き返ったという表現は間違いじゃない。

現代医療をもってすれば、心臓が取れても付けることが出来るのだ。


(とりあえず早く逃げないと! 生きていると知られればまた殺される)


身体を動かそうとするが上手くいかない。

腕に付いた煩わしい針を引き抜く。

ベッドから足を下ろして、立とうと試みる。

だが、


「なっ!」


ペタンと尻餅を付いてしまった。

女の子座りになってしまったが、立てない衝撃の方が大きい。

どうにか立とうと流し台に手を掛け立ち上がる。

すると、一人の少女がこちらを見ていた。


「はろー?」


日本人離れした美少女だったし、反射的だった。

しかし、その言葉は目の前の少女が言っていた。

鏡に映っている人物がだ。

口がその通りに動いたから間違いない。

混乱する頭で現状を理解しようとするが、一つの結果にしか結びつかない。


「まさか……僕?」


その声は自分が言っているのに、鏡に映った少女の口が動いている。

可愛らしい声が頭に響く。

僕が美少女で美少女が僕で。

ガチャ。

混乱のさなか扉が開く。

白い服に身を包んだ女性。

看護師だろう。

その女性は一瞬逡巡の後、素早い動きでベッドに繋がれたボタンを押し叫んだ。


「麗華お嬢様が目覚めました!」


どうやら、僕は麗華という美少女になったらしい。

様付けということは良いところのお嬢様なのかもしれない。

僕はそんなことを冷静に思った。


ーーーー


「麗華? 私達が誰だか分かるかい?」

「ママよ、わかる?」


目の前の夫婦が僕に話し掛ける。

明らかに若い母親だ。

先ほど鏡で見た美少女とよく似ている。

姉と言っても差し支えないだろう。

父親は年相応に威厳がある顔をしている。

ロマンスグレーな髭が綺麗な形に剃られている。

こんな成りをしてロリコンとは世界は広い。


「ごめんなさい。」


その言葉に夫婦の顔は絶望に染まった。

悪いことをしたとは思わない。

残念ながら相手に気を遣う余裕がないのだ。


「まだ目覚めたばかりですし、混乱しているのでしょう。」


白衣に身を包んだおじさんが夫婦に説明する。

確かに混乱していたが、だいぶ落ち着いた。

その上でわからないのだ。

初対面なのだからしょうがない。


「それにしても……良かった。目覚めてくれて。」

「えぇ……えぇ……。」


涙を流す夫婦には罪悪感しか感じない。

ここにいる僕は部外者なのだ。

ボロが出ないように沈黙を選ぶ。


「手術の後遺症はないはずなのですが。」

「先生、ありがとうございます!」

「いえいえ仕事ですから、それに……ここからは何も出来ませんので。」


申し訳なさそうに頭を下げる先生。

居たたまれなさがヤバい。


「あの!」


僕は声を上げた。

解決の糸口は、考えることじゃない。


「ぼ……私のことを色々教えてください!」


ひとまず情報収集だ。

これは鉄則だ。

そして、僕は私のことについて知る。



ーーーー


獅子堂麗香。

あからさまにお金持ちそうな名字。

獅子堂財閥は様々な事業をマルチに展開している。

働かなくても不労所得で生きていける。

父である明夫はアドバイザー的な立ち位置で切り盛りしている。

母である麗子は元モデルでファッションデザイナーだ。

ブランドを立ち上げる際のパーティーで父と出会いゴールインしたそうだ。

その間に生まれたのが麗華である。

その麗華だが生まれたときから心臓が悪く、度々入退院を繰り返していた。

そして、移植手術に乗り出し今回に至る。

そう……どういうわけか僕の心臓は麗華お嬢様の身体に移植されたらしい。

正直死んだ後の記憶がないので、何とも言えないが。

もしかしたら、これは理不尽に殺された僕の復讐の為に用意された舞台なのか。

そんなことを一瞬思ったが、すぐ悪寒が走った。

あの化物にには絶対に勝てない。

生半可な生き物じゃ絶対に勝てない。

とりあえず強くなろう。

僕……いや、私はそう誓った。

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