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少年は考えていた。

男の言った言葉の意味を。

だが、少年には死を前にして言った狂言にしか思えなかった。

ここ最近はずっと、その事ばかり考えている。

その答えを知ろうにも相手はもう既にこの世にはいない。

まるで、答えのない問いのように。

まるで、身に纏わりつく呪いのように。

少年は考える。

そのせいで少年の歯車が狂い出すとも知らずに。


ーーーー


「おい、44番!支配人(オーナー)がお呼びだ。」


44番。

それが少年の名前だった。

名前は個人を表す。

自我を表す。

少年のような存在には必要のないものだ。

目の前の男の物言いは気に入らないが無視はできない。

だが首から提げた社員証がこの会社の人間だと証明している。


「……。」


沈黙を肯定と受け取ったのか。

男はそれだけ言うとどこかに行ってしまった。

少年に拒否する権利などない。

なんたって支配人(オーナー)だ。

少年達、殺人装置を取り扱う会社。

その代表。

その命令は何よりも重く、それに逆らうことは許されない。

少年は指示された場所へと向かう。

その部屋はよく実習で使われる広い部屋だった。

実習。

端的に言えば殺しの練習場だ。

そんなところにお偉いさんが一体何の用だと言うのか。

ポーカーフェイスが板に付いた少年でも不安な表情になる。

部屋の中に入ると既に一人の男がいた。


「よく来たね、44番君。」

「はい。」

「そう固くなるな、と言っても無理な話かな。」

「……。」


細身でスーツ姿がよく似合う男だった。

年齢は20代か、若作りしているのか本当に若いのかはわからない。

しかし、圧倒的なまでの余裕が男にはある。

自分が上だと、お前は下なのだと。

本能が危険を呼び掛ける。

だが、少年は何があっても引かない。

それが生きる為には必要だったから。


「ちょっと話をしようと思ったんだけど、それも必要ないかな。君は自我を持ちすぎた。考えることは大切だ。だが、道具には必要ない。そうだろう?」

「……」

「最初は勘違いかと思ったけど、会って確信に変わった。君はもう用済みだ。」

「ちっ!」


最悪が頭をよぎり、男との距離を詰める。

この間合いなら武器がなくとも殺れる。

その自信が少年にはあった。

男の首に伸ばされた手。

完全に殺ったと思った手が何者かに掴まれる。

トップスピードに乗った自分の攻撃を止められた。

しかも掴まれた。

彼我の実力差を悟るが、諦めない。

自分の命を簡単に諦められない。


「近づき過ぎだ、バカ。」

「君ならどうとでもなるだろう。」

「一変死んでみないとわからんらしい。」

「それも阻まれたようだね。君自身の手で。」


支配人(オーナー)と世間話をする男。

男だと思われる。

その顔が認識出来ない。

まるで視界に霧が掛かったように見えない。

だが、わかったことがいくつかある。

それはこの男が化物だということ。

そして、自分が死ぬということ。


「くそっ!」

「うん、良い腕だ。その年齢でここまで……君には才能がある。普通の世界じゃいらない才能だがな。」


支配人(オーナー)の命を狙うのは早々に諦める。

逃げるしかない。

その為には、この化物の隙を突かなければいけない。

地面の砂で目つぶしをかけるが、そんな子供だましでは逃げられない。

我武者羅に拳や蹴り繰り出すが、その悉くが避けられる。

一体何回殺されただろう。

男が本気なら少年はとっくの昔に死んでいる。


「なぁ、本当に殺すのか? これほどの逸材を。」

「不穏分子は排除するだけだよ。」

「はぁー面白味のない解答で。」

「そうじゃなきゃこの世界では生き残れないよ。」


支配人(オーナー)と男が会話に華を咲かせている。

戦闘中にも関わらずに。

緩い手など一つ足りともない。

一撃一撃に必殺を込めているのに。

まるで子供だ。

まるで赤子だ。

そんな扱い。

その事に不満はない。

弱いのが悪い。

簡単なことだ。


「じゃあ、終わらせるか。」

「うぐっ。」


男の右手が少年の首を掴み、持ち上げる。

少年は呼吸をするため手を外そうと試みるが外れない。

惨めに足をバタつかせる。

その動きのせいでポケットから一枚の紙が落ちた。


「なんだ、これは。」


その紙は地面に落ちる前に男の左手に拾われた。

男はまるで面白い玩具を手に入れたかのように笑った。


「やっぱり逸材だよ。人を殺す道具が人の為を思うなんて。」


それはドナーカードと呼ばれるものだった。

仕事で外に出たときに配っていたものだ。

普段なら受け取らないが、考え事をしていたせいで無意識に受け取ってしまった。

そして、少年はその裏面に書かれた文字を見て丸を付けた。

この先に殺した男の「ありがとう。」がある気がして。


「贖罪のつもりか……多くの命を奪って、誰かの命を救いたいとはね。」

「その命令を下したのはあんたであって、彼らはそれを望んでいなかったってことだろう。」

「ふん、くだらないね。」

「……確かにくだらないな。」


ぐしゃっとカードを握り潰し、その手で少年の心臓を貫く。

びくんびくんと少年の体が痙攣する。

少年は薄れゆく意識の中で思った。

やっぱり自分はおかしくなってしまったのだと。

死ぬ間際に感じたことが、苦しいとか悲しいとかではなく。

心臓に触れた手が温かかったことなのだから。

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