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見えない自分 2

「あなたたち、自分の売りって何なのか考えたことある」

 レコーディングに入る前のミーティングで内藤さんが俺たちに言った。

「曲とか、見た目とかそういうことですか」とケン。

「そう全て。何でもいい。売りだと思うことを言ってみてよ」

「声。曲によって唄い方も考えるし、聴く人も一緒になれるように煽りを入れて盛り上げてくこと」と俺。

「ノリを加速してガンガン追い込むようなリフ。それと髪型。動いて派手に盛り上げること」とセイ。

「キレとパワーの感じられるドラムで気持ちをスカッとさせること。男っぽさもあるかな」とケン。

「ノリを意識した曲作り。演奏は安定感があると思う。あと歌詞にメッセージを乗せること」とユッケ。

「足りないね、まだまだあるよ」と内藤さんは言った。

「自分で考えてる魅力と、人から見える魅力ってのは違うんだよ。例えば…」

 そこから、新譜で誰に向けてどうアピールするのかって話になった。

 プロとして売れたいのなら、やりたいことだけガムシャラにやっても意味がない。

 何をどう訴えるのか考えて、スタイルもわかりやすく決めてイメージを持ってもらって、

 どんなファン層をターゲットにするのか。そういうことを考えさせられた。


 別の日には宣伝や広報に使うための写真を色々撮られた。

 撮影の合間に「俺、また遊びに行ってきちゃった」とケンが言った。

 東京でも俺たちはあちこちのライブハウスに出入りして、友達の演奏を聴いたりしている。

「またジャズの店」

 ケンは吹奏楽からドラムに入ったのでジャズやクラシックも知っていてサックスも吹ける。

 演奏が好きで面白いらしくジャズの店にも出入りしていた。

「うん。聴きに来てたおっさんに何か楽器やってるのかって言われてさ。ドラムやってますって言ったらじゃあなんか演れって『A列車で行こう』叩いて来た」

「いきなり、すごいね」

「君、音でかいねえって言われて結局ロックやってんのバレて、そのあと酒奢ってもらった」

 ケンは21だから酒も飲める。

「またサックスも練習するかなあ。とりあえず『枯葉』一曲くらい」とジャズセッションにハマったようだ。


「俺も、もうちょっと日焼けするかなあ」撮影で髪を濡れた感じに整えられたユッケが俺を見て言った。

 外でのランニングを続けている俺は日焼けしてきた。

「ユッケ髪似合うね。でもそれで日焼けしてグラサン掛けたらちょっと怖い感じ出るかもな」

 ユッケは身長もあるし。中学まで俺の方が高かったけど高1の段階でユッケに身長を抜かれた。

 俺が今多分177くらいでユッケはもう180はあるだろう。ユッケは男前だと思うし足も長いし靴はでかい。

 ふとExciterのママ翔ちゃんの黄色い声を思い出した。ユッケ、翔ちゃんに気に入られそうだな。

「怖い感じは違うんだよなあ」

「日焼けしたいの。暑いしどっか泳ぎに行きたいなあ。そしたら焼けるんじゃない」

「区民プールとかあるんじゃね」

「そういうんじゃなく海で潜ったり飛び込んだりしたい」と話していると、

「君たち結構泳げるの」とカメラマンの芳賀さんが話しかけて来た。

「二人とも泳ぎは好きで、高校の時はちょっとだけ水球もやってました」とユッケ。

「水球か、やるねえ。僕ダイビングインストラクターの資格あるけど、やってみたいなら連れてくよ」だって。

 いいなあ、それ。芳賀さんすごいなあ。

「やってみたいです。お願いします」ユッケと二人して即答した。


 セイは、さっきからヘアメイクのスタッフと話している。

「髪型決まってるねって」と嬉しそう。

 セイは髪色は自分で赤くしていて、ビシッとハードに固めて立たせた髪はライブ中も崩れない。

 さすが美容室の息子だ。それにこっちに来てから耳のピアスも順調に増えている。

「こっちは古着のいい店、あるよね」といろんな場所を探しては教えてくれるセイは、俺たちの中でも東京という街を一番探検していると思う。ギターも専門店を一緒に訪ね歩いてチェックする。

 そしてセイと一緒に友達のライブを見に行くと、大抵「助っ人登場」とステージに上げられて演奏することになる。

「セーイ」

「かわいいー」

「こっち向いてー」とこっちでも女子のコールがすごい。かわいい、は必ず言われてるな。

「どうもー」と人懐こい笑顔で登場してギターを持つと猛烈に暴れ出す、小柄なセイは最強だ。


 途中から内藤さんが撮影の様子を見に来た。

 今日は肩パッド入りのグレーのスーツに黒のハイヒールで、腕組みしてる姿はいつもながらやはり怖い。

「ケンとユッケは男っぽくてハードでいいよ。セイはちょっと生意気そうな感じを出してもいいんじゃないの。

 そしてコウは、謎っぽいセクシーさでいくか」

 謎っぽいセクシーさ、とは何だ。セクシーってのはExciterでママの翔ちゃんからも言われた。

 俺ってそういう要素があるのか。

「コウ君考えすぎないでいいよー。やや上むいてちょっと目線落としてみて、そう」

 カメラの向こうから、芳賀さんが声をかけてくれた。

 不意に、記憶の中で曲が流れた。You Really Got Me

 Van Halen のバージョン。

 高1の時、ギターがカズで新ちゃんがドラムで、Darwinがコピーバンドだった頃のライブで唄った曲。

 未希に聴いて欲しくて、唄った曲。

 ステージから俺は未希の姿を捉えていた。未希も、それに気づいてくれてた。

 あの日、未希が俺に言った。

「コウの歌でコウの気持ちがすごく伝わった。聴いてる時、私とコウの気持ちが繋がってると思ったよ」

 好きな相手と気持ちが繋がることをあの日初めて知った。あの日、未希と初めてキスした。

 そう、もう二ヶ月以上未希と会ってない。

「会いたい」

 そう言いたいけど今は。


 視界が何度か白く閃いた。カメラのフラッシュだ。

 そして芳賀さんが言った。

「コウ君いいよ。オッケー」


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