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再びこの街で 2

1988年1月。


洸と私が離れてから、二人とも「会いたい」と言うことを避けてた。

洸が一人でこの思いを噛み締めているのなら、私も一人でこの思いを抱きしめて泣く。

強くなろう、そう思って必死だった。

手紙を書いたり、電話をしたりすることはあっても近況を話したり笑いあったり。

会いたいと言わないことで、反対に想いを確かめていたのかもしれない。

この二年近くの間に、私を好きになって付き合いたい、と言ってくれる人もいた。

それでも洸を想っている私の気持ちは揺るがなくて、やっぱり私は一人で立っていた。

会えないのに、会えなくても私の中には洸しかいない。

私が住んでるこの街に洸の姿がない、触れられない日々はとてつもなく寂しかった。

離れて最初のお正月には久しぶりに会えるはずだったのに、洸は東京で倒れた。

遠くにいるのに、しかも倒れるなんて。その時は東京に飛んで行って、病気でも洸が目の前にいるだけで、顔が見られただけでよかった。

でも、洸を思うと私はどんどん欲張りになってしまう。

8月には洸が招待してくれて、Darwinの渋谷でのライブに聖美さんとチエと行った。

あの時は新ちゃんも来て楽屋にも寄って、札幌にいた時みたいにみんなと騒いで楽しかった。

でも東京で会った時の洸は、自分の辛さや大変なことは一言も言わなかった。

何もないわけがないのに。なかったのに。

東京で初めて二人で眠った夜に感じた、洸の心のずっと奥にある見えない辛さ。

それを見せてくれない洸がすごく心配になる。私のことを気にかけるばかりじゃなくて、私にも洸のこと心配させてほしい。

もうこれ以上は無理なの、私は洸にも自分にも正直になりたかった。

離れているし顔も見えないし、話したいときに話すこともなかなかできない。

言わなきゃ、きっと伝わらない。

洸に電話した。

「私、洸に会いたい。一目でもいいから、どうしても会いたいの」

ついに、そう言ってしまった。受話器の向こうで洸は少しの間黙っていて、それから言った。

「未希。ごめんね」

やっぱりダメ、なのかな。

受話器を握りしめて目を閉じた時、洸の声が言った。

「未希にそんなこと言わせてごめんね。俺の方こそ、もう限界。未希に会いたいよ、すごくすごく会いたいんだ」


雪が降り続いて白い雪に包まれた夜の札幌の街は、夏に洸と見た宝石をちりばめて輝く海のような東京の夜とは違う。田舎だし、寒さが厳しくてみんなモコモコと厚着で全然おしゃれじゃない。

でも「寒いね」って言い合って大好きな人と必死に寄り添う。

「ほら、転ばないように」ってしっかり手を繋ぎあう。

雪が強く降りつける日は、吹雪の中でお互いを、進む道を見失わないように腕を組むんだ。

再びこの街で、嬉しくて泣きそうな笑顔で洸と私は向かい合った。

お互いに弱音を吐いてしまったはずなのに、目の前の二十歳の洸はずっと大人びて男っぽく感じた。

洸は腕の中に私を捉え、指先で私のほっぺたをつついて笑顔を向けた。

「これからはもっと会おうよ。未希、そうしよう」

「でも洸、無理しないで」

「もう離れて二年になる。未希と会わないでいる方が俺はもう無理。いろんなことがあるけど、未希との時間を大事にして一緒に飛び越えて行きたいんだ」

「そうしていいの洸。洸が思うより私、きっとすごく欲張りだよ」

「いいんだ。未希が会いたいって言ってくれた時、俺は救われた気がした。本当に救われたんだ」

そう言って洸は私の弱さを辛さを受け止めてくれた。それだけじゃなく私も洸の辛さをきっと受け止めることができたんだと思う。

これまでずっと洸はプライドをかけて、自分自身と私との間の誓いを現実にしてきた。何でも一人で歯を食いしばって解決しようとしてしまう。それは洸の心配なところだった。

けれど今、こうして会えたら洸の中で何かが変わったような気がする。

これからはもっともっと、たくさんのことを二人で分け合いたい。

この街で、再び二人で眠る夜に洸は並んで横たわる私の手をとった。

「未希、俺を抱きしめて」そう言った洸は私に背中を向けた。

私は洸をそっと背中から抱いて、あの翼が生えてきそうな肩甲骨の隆起にキスした。

以前のように洸は嫌がらないし、逃げなかった。

世界一大切な愛おしい背中に、私はもう一度キスした。







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