異世界と言えば…
あれから10分弱泣き続けた私に中性的な顔立ちのイケメンな青年…例えるなら王子…そう王子(仮)としよう。
王子(仮)は私に優しく声を掛ける。
「落ち着きましたか?」
「はい…すいませんでした…」
「よかった…」
イケメンまじ本当イケメン。
「いきなりゴブリンと遭遇したら驚いてしまうのも無理はありません ご無事で何よりです」
あー!イケメンは性格も綺麗なのね!
嬉しそうに私の手をとってそうやって微笑むのって反則じゃないですか!?ねぇ!!かっこいい!!
爽やかな透き通るような綺麗な水色の髪を風になびかせて これまた綺麗な碧色の無垢な眼で見つめないで!!
眩しすぎて直視できない!!
「?どうかなさいましたか?」
「あっ!いえ…なんでも…!」
勢い良く顔をそらしたから不信に思われてしまった。
そいやぁ王子(仮)のステータスは…ってあれ?
「み…見えない…」
王子(仮)のステータスが見えない…てか自分のも見れないし!
一口飲んだら一日見れるんじゃなかったっけ!?
…ってそもそも直ぐに吹き出したから飲んですらいなかったか…
「ゆう「あー!!!!やめて!!その呼び方はやめて!!!!」はっはい…」
憧れの職業で呼ばれたら精神が持たない…
突然叫んで申し訳無いと思いつつも驚いて目をぱちくりさせる王子(仮)もとてもイケメン。
王子(仮)はふっと心が落ち着いたのか柔らかい笑みを浮かべるので私は思わずドキッと胸がなってしまう。
「申し遅れました 私はナハール王国の王子 ネイレス=ヒュードランと申します …貴女の名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あ、アカネです…本田明音…」
「ホンダ アカネ様と申されるのですね…素敵なお名前です」
くっ…口説いてるのか王子(仮)改め 本当に王子のネイレスさんは!!
イケメンに嬉しそうに微笑みながら名前を誉められるとか一生経験しないであろう場面に思わず照れてしまう。
「様なんて…アカネで良いですよ」
「それではアカネさんと呼ばせていただきます どうぞ私の事もネイレスとお呼びください」
なに、このラブコメみたいな甘いな空気は。
少し照れてしまった私と変わらぬ爽やかな笑顔のネイレスさんとの間のむず痒いこの空気。
耐えられん、耐えらんぞ…
何を隠そう私は乙女ゲーが苦手なのだ。
一度だけ興味本意で友達から借りた事のある乙女ゲーム。
イケメンに甘い声で囁かれると余りの羞恥心に大事なゲーム機を何度も机の縁で叩きまくった後にパッキンアイスの如く膝を使って真っ二つにしてしまうくらいに甘い空気に耐性がない。
因みに友達には鬼の形相で怒られちゃったよ…勿論、弁償もしました。
すこぶる膝を痛めたのも想像できるでしょ?
まぁ、兎に角私にはこの空気は耐えられないの!
「それではネイレス…さん 危ない所を助けていただき有難うございます これから魔王の元へ行かねばなりませんので私はこれで…」
さっきまでの激しい動揺を隠す様に営業スマイルを浮かべて私は立ち上がる。
まぁいきなり魔王の元へ…なんて死にに行くようなものだけどね…
今じゃアリと人間くらい力の差があるもの…
チート能力もないし…って別にチートを諦めた訳じゃないよ!?旅の途中で手に入る可能性もあるし!
「アカネさん…是非私も旅にご同行させていただけないでしょうか?」
「…………」
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」
あ、ヤバイ声に出しちゃった。
私と同じ様に立ち上がったネイレスさんはまるで捨てられた子犬の様な眼差しで見てくる…けど。
ここは丁寧に…いやそれじゃあ駄目!!
私は決心して深く息を吸うとびしっとネイレスさんを指差す。
「お言葉ですがそれはできません!!私はネイレスさんを仲間になんて出来ません!!私の旅に!!勇者である私の旅についてこようだなんて烏滸がましいですよ!!私には私に相応しい旅の仲間を探します!!ので!ネイレスさんに御供をされるだなんて出来ません!なによりネイレスさんのお顔や性格がイケメン過ぎて私の精神がもたない気がします!」
略、お言葉ですがネイレスさんに私と一緒に旅をしていただくなんて申し訳ない。勇者と呼ぶには力不足である私の旅に、一国の王子であるネイレスさんについてきていただくなんてそんな迷惑なことは出来ません。私はレベルをあげてから一緒に来てくれる友を探します。ですので、ネイレスさんに御供をしていただくなんて事は出来ません。きっと頼りきってしまいます。なによりネイレスさんのお顔や性格がイケメン過ぎて私の精神が持たない気がします。
ネイレスさんは私が迷惑をかけるのが嫌だから断るって知ったらきっとそれでも構わないって言ってくれると思う。
だから私は心がとても痛むけど…いや心だけじゃなくキリキリと胃に穴が開きそうなほど痛むけど、冷たく突き放す。
少なくとも私の中ではかなり冷たく突き放したと思う。
そんな私の言葉を聞いたネイレスさんはキョトンとした後顎に手を当てて悩む。
すると何かを思い付いたのか一本の葉っぱの大きな木から一枚葉っぱを取ると目の所に穴を開けて超簡易的なお面をつくった。
「これをつけていても駄目ですか?」
「っ…だ、ダメです…」
揺らぐな!揺らぐな私ぃ!!
お面を顔に当てて小首を傾げる動作が天然が入ってる動作は可愛い人やイケメンに許された特権の行動。
それを見れたからってけして揺らぐな私ぃ!!
「と!兎に角、私は行きます!」
「あっ!アカネさん!!」
私はそういうとネイレスさんに背中を向けて森の方へと行った。
多分これは無謀な行為だけど私は行きます…逝ってきます。
*✲*✲*✲*✲*✲*✲*✲*✲*
そうして私は現在、森の中に入ってしまったことを後悔している。
理由は3つ。
1つめ、おじ様から貰った大切な荷物をネイレスさんと別れた地点に置いてきた事…あ、でもちゃんと刀はあるよ?
2つめ、道に迷って戻れない事。
3つめ、以外とゴブリンが多過ぎて木の上に避難するしか無くて全く身動きがとれない事。
…………
「ぶぅぁっかじゃないの!?!?」
声には出したけど超小声でさけんだ。
いや!だって本当に我ながら馬鹿だとは思ったよ!!
急いでたから忘れ物はしょうがないって思いたいけど闇雲に森の中を歩き回って道忘れるって!
あ…私忘れてたけど方向音痴だった。
しかも森の中歩いててゴブリンと遭遇して必死になって逃げて、逃げて、逃げまくって木の上ってのもはしたない気がする。
いや普通にはしたない。
だって制服のスカートだし。
何とか逃げたは良いけどゴブリンは私を探してうろうろしてるし…
正直、前途多難…いや!まって!
まだ試してないことがあったのを思い出した。
私は小さく深呼吸をすると目を見開いて片手を前に突き出す。
「ファイヤー!」
再び小声で叫んだ。
異世界と言えば魔法…魔法ですよ!
まだまだ夢が隠しきれない異世界生活。
この中で叶えたい事の1つである魔法!
早速凄まじい威力の炎が…………でない。
あ、あれぇ?
ここは大きな火の玉が出て来て近くで私を探しているゴブリンを焼き払うところじゃないの?
せ、せめて手を前に突き出す度に小さい炎が出てくるやつでもいいのよ?
あの有名なカメやキノコの国を裏切ったきのこを一撃で倒せるレベルのやつ…ってもしかしてこれも思ってるより威力が強そうな響きだわ…
うーん…もしかしたら私は炎の適正が無いのかも…
じゃ、じゃあ次!
今度は空に手をかざすとバレないようにまた小声で叫ぶ。
「アイスストーム!」
手を台詞と共に勢い良く地面に振り下ろす。
今度は沢山の屋根の雪解け水が作る氷柱の様な物が無数に生成されて私の呪文と共に敵に当たるイメージ。
自画自賛するけどイメージだけは完璧。
只、それは実現はされない。
イメージ力がたりないのかな、とも思うけどふと頭を過ったのは自分のステータス。
確かMPは14…だったっけ。
HPは10…じゃなかった、ダメージ受けてたから5だ。
超瀕死の人じゃない…
飲めば体力フル回復、そんなとても良い傷薬でもあったら回復して逃げるのに…
いや、回復したところで体力が10なら即死じゃない…?
腰に装備している刀に触れる。
すうっと鞘から抜いて綺麗な刃の部分を見つめる。
戦うならこれしかないのかなぁ…
よし。
私は刀を鞘に戻すと近くにゴブリンが居ないのを確認してゆっくりと木から降りる。
降り終わるともう一度刀を抜いてゴブリンを探す。
そうして少し遠くに一匹のゴブリンを見つけた。
…大丈夫。
ゆっくり深呼吸をしてバレないように バレないようにとじわじわと近付く。
そうして背後をとり、大きく刀を振りかざして斬…る寸前で私は急に恐怖がやって来た。
き、斬れない…
刀によってゴブリンとはいえ傷ができて血が出る、そんな予想をしてしまったから。
喧嘩なんてしたことない。
刃物で誰かを傷つけるなんてそんな事したことないもの。
なにより、グロいのは苦手だ。
「ぁ……」
思わず後ずさりをしてしまった。
地面と靴が擦れて音がなる。
綺麗に背後を取ったのに気付かれてしまった…!
ゴブリンが振り向く。
私は顔をひきつらせた。
「こ、こんにちはー…今日は天気が良いですねーあは、あはははは…」
誤魔化せないかと思って軽く挨拶をしてみる。
ゴブリンと目が合う。
そこから始まるのは恋…ではなく、恐怖の鬼ごっこ。
ゴブリンが動き出すと同時に私も逃げる。
この歳になって鬼ごっこをするとしたら砂浜できゃっきゃうふふと捕まえてごらんなさぁーいってイメージがあったけどゴブリン相手にそれは厳しい。
寧ろ捕まえないで下さい!
「不意打ち狙ってごめんなさいー!でも私狙っただけ!なにもしてない!超無害よ!?怒らないでー!!」
元々可愛いとは言い難い見た目のゴブリンが更に顔を怖くして追いかけてくる。
逃げてる最中に私はふと試していない可能性を思い出した。
そうだ…まだ試してない!
恥ずかしいけど私は大きくすうっと息を吸い込む。
「体内を巡回する血液よ、人を脅かし悪の魔物の脳を溶かせ!プレインダムド!!」
少し痛い詠唱(咄嗟の思い付き)を叫んでバッと勢いよく振り返りゴブリンに手をかざす。
詠唱が無かったから発動しなかった説もあるもんね!
ゴブリンの動きがピタリと止まる。
おっ!?成功した!?
……………ゴブリンは首をかしげた。
はぁぁぁぁぁぁぁい!!!!効くわけ無いですよねぇぇぇぇぇ!!!!
ゴブリンは再び動き出す。
私も走り出す。
さっきのは空気読んでくれただけなんですね!
只精神が摩耗されただけだよぉ!!!!
あーあーあー!!!!
本当やめてくださぁぁぁぁぁい!私を倒したところで経験値は有りませんよ!!!!
体力がないのもあって息が切れて死にそう…特に腰に携えてる刀が…刀?
これを差し上げれば許してもらえたりしない…かな?
「ゴブリンさん…いや!ゴブリン様!!」
私がそう叫び振り替えるとゴブリンは足を止める。
そうして腰から刀を取るとそのままゴブリンの前に差し出す。
「どうぞこちらでお許し下さい…私はこれ以上良い品は持ち合わせておりません…」
差し出された刀をゴブリンは手に取る。
そうしてじっと眺めた後、それを振りながら追いかけてきた!
はぁーい!ダメなんですね!!見逃してくれないんですね!
もう不意打ちしたりなんてしませんよ!!
これもう追い付かれたら終わりじゃん!さっきの段階でも終わりだったけど!
何せ体力5ですから!
半べそ状態で走っていると私の進行方向にある茂みが揺れる。
ゴブリン!?ゴブリンが増えるの!?
「アカネさん!!」
「ぁ…ネイレスさん」
正面の茂みの揺れの正体はネイレスさんでした。
一瞬嬉しそうな顔をしたかと思えば 直ぐに格好い…凛々しい表情になり私の横を走り抜け 何処からか 水の剣を取りだしそのままゴブリンを倒した。
うん。
一回目の登場はあまりにも綺麗でゴブリンの事は忘れていたけど今回は違う。
倒されたゴブリンが見える。
ネイレスさんは素早く剣でゴブリンの首を飛ばし、ゴブリンの首からは緑色の液体。
私は初めて打ち首(?)の瞬間を目撃してしまった。
この世界のゴブリンの血は緑なのねー!なんて考える余裕もなく、その衝撃的瞬間にショックを受けて意識を失った。




