始まりは突然
私、本田明音〈ホンダアカネ〉は受験勉強を終えて無事に高校に入学してから半年。
今日も溜め息と愚痴を溢しながら帰宅していた。
「はぁ…お姉ちゃん…何時になったら帰ってくるのよ…」
姉の本田梓〈ホンダアズサ〉は運動以外なら何でもこなす優しくて自慢のお姉ちゃん。
私が受験の時は勉強を教えてくれたり、夜食を作ってくれたり、美味しい御菓子を作ってくれたり…あ、増えた体重は聞かないでね?
まぁ兎に角、大好きなお姉ちゃんだったんだけど、私が高校に入学する本の少し前に行方不明に…
お父さんとお母さんも警察の力を借りてまで必死で探しているのにお姉ちゃんはまだ見つからない。
「お姉ちゃん…会いたい…」
お姉ちゃんがこうまで見つからないと…もしかして…なんてネガティブに考えてしまう。
でも「大丈夫、絶対に見つかる」って信じるしか無いんだ。
直ぐ目の前の曲がり角で左に曲がればもう家に付く。
両親にも心配掛けないよう深呼吸してから 明るい笑顔を作る。
「よしっ!」
気合いを入れて右足を踏み出すと右足の着地地点に黄色い物体。
その物体に気付いた時にはぐにょっとした感触と体重が加わったせいでそのままずるりと滑る。
宙を舞う黄色い物体を良く見るとバナナの皮で、あぁバナナの皮ってこんなに滑るんだなぁ。
バランスを崩してそのまま転倒するんだと理解して固く目を閉じる。
直ぐに来ると思っていた衝撃は来ず、続く浮遊感。
不思議に思って目を開けると例えるなら不思議の国のアリスが最初に穴に落ちるシーンの様な長く暗い空間を落ちている。
「はっ…?えっ!?なにこれ!!?」
落ちる先から光が差し込んできて目を細めて見ると大理石の床が見え…まって!!!死ぬ!!死ぬから!!!!この高さから大理石の床に落ちたら死ぬから!!!!
「水を司る精霊アノスよ 我ナハール王国の王女に力を貸したまえ…"ウォーターボール"」
凛としていて清んだ綺麗な声が聞こえる。
まるで魔法の詠唱みたいだなぁなんて思っていると大理石の上に叩き付けられる寸前に水に包まれ衝撃が吸収され 直ぐに水は消えていった。
服も全く濡れてない。
状況が理解できず周りを確認するとまるでお城を連想させる内装に何故か私を中心としてある魔方陣の様な模様。
「手荒な呼び出し方で申し訳ない 異世界の少女よ」
声のする方を見ると洋風のドレスを身に纏った水色の髪の絵に描いた様な女王様が申し訳無さそうにこちらを見ているけどどうしてもその隣にいる縄で縛られた王様らしき人に目が行っちゃう。
ん?まって今異世界って言わなかった?確かに日本じゃ有り得ない状況ですが…
「急な話で申し訳無いのですが 貴女はこの世界の救世主、勇者に選ばれました勇者様には魔界に住む悪の魔王を倒して頂きたいのです」
異世界?勇者?魔王?まるで大好きな携帯小説みたいな話…でも…
「私お姉ちゃんを探さなきゃ…」
「お主…前に呼び出した勇者と同じ服じゃなぁ…髪色も一緒じゃ…」
断ろうと思ったら女王様の横にいる王様(仮)が喋った。
同じ服って制服が一緒ってこと…?それってもしかして…
「それっ!何時の事ですか?!」
「何時って丁度一年位前の事じゃよ」
前に呼び出された勇者がお姉ちゃんだったらなんて思ったけど居なくなった次期と違う…
「彼方と此方は時間の流れが違うと聞きました…もしかすると貴女の探しているお姉さんかも知れません…」
確証がないので何とも言えませんがと付け足して言う女王様の言葉に消えかかった希望がまた強い光を放った様に感じた。
「勿論 勇者様の御意志を優先致しますのでお断りする事も可「やります!」」
女王様が喋っている最中だと言うのにお構い無しに私は言葉を被せた。
ごめんね女王様!
「困っている人をほっとくなんてできない主義なので!」
自分で言うのも何だけど断ろうとしていたタイミングで言うと菅原は嘘に聞こえる。
困ってる人をほっとけないのは事実で、実際に最初の登校日は迷子を助けて学校に遅刻した事だってある。
異世界に来て勇者を引き受けるのはその理由もあるけど、本心としては前勇者がお姉ちゃんかも知れないなら、魔王を倒すまでの道程で会えるかもしれないっていうのは内緒。
「勇者様…!ありがとうございます!早速勇者様の旅の仲間に相応しい者をお連れいたしま「大丈夫です!」えっ…」
「旅の仲間は旅の途中で出会うと相場が決まってますので!」
勿論携帯小説やゲームの中で!
私は心の中で補足し、自信満々に言う。
「と言うことはお主は直ぐに出発し武器屋に行きたいのだな!?」
どうやったのかは知らないけど王様(仮)は縛られていた縄をほどくとにやりと笑い私の考えを予測していたかのように聞いてきた。
「はい!勿論!今すぐに!」
「ならば転送してやろう!空間を司る精霊ディオネよ我ナハール王国の王に力を貸したまえ!"転送 武器屋まで"!そーれゆけぇぇ!!」
あっ…ちゃんと王様だったのね。
王様が大きな声で言うと私を中心として書かれた魔方陣が青白く光だした。
まって、結構眩しい!目に悪そう!
「あぁ…!!もう、王様の馬鹿!」
「いたぁ!」
女王様は王様の鳩尾にパンチときめると慌てて王様の服のポケットを漁ると小袋を取りだしじゃらりと音を発てながら私の方へ投げた。
「ワシの小遣いがぁ!」
「準備が足りず少ししか入っておりませんが御使いください勇者様!ご幸運を御祈りしております!」
「あっ!ありがとうございます!」
私は投げ渡された王様の小遣いを大事に持ちながらお礼を言うと女王様はにこりと笑った。
「ワシの小遣いがぁぁぁ「五月蝿い!!」あべしっ」
そんな笑顔は王様の嘆きで一瞬にして鬼へと変わり王様の顔をビンタした。
見なかった事にしようと顔を背けようとしたが光が濃くなり目を細めた。
階段の二段目位から飛び降りた位の浮遊感を感じ終わると衝撃が走る。
目を閉じていたせいで着地に失敗したみたい。
あくまでも目を閉じていたせいだから、ここ重要。
服についた砂ぼこりを払って顔を上げてみると目の前にあるのは武器屋と思われる建て物。
看板があるけど日本語じゃないので読めない。
小説内で良くある翻訳機能が無いことを考えると魔王退治まで居るわけだから時を勉強しないと駄目なんだろうなぁ…
こんなところでずっと突っ立ってる訳にも行かないよね。
「ごめんくださーい」
扉を開けて中に入ると壁に飾られていたのは剣や鎧、そしてセーラー服やブレザー…って何で制服が飾られてるの…?
「へいっらっしゃい!」
店の奥から厳つい色黒のおじさんが出てくる。
この制服達はこの人の趣味かな…?
だとしたらなるべく関わりたくはないかな…
「えっと…あの!剣や防具が欲しいんですが…」
私がおじさんと目を合わせずに話すとおじさんはじろじろと私の服装を観察する。
わーっ…セーラー服だから!?セーラー服だからこんなじろじろ見られるの!?やっぱりおじさんの趣味!?
「おやぁ?もしや勇者様ですかい?」
「えっ?はい!一応」
何で勇者って解ったのか気になったけどおじさんはにかっと笑った。
「やっぱりなぁちょいとまってな!」
そういうとまた店の裏の方へ行き直ぐに戻ってきた。
「おまたせしやした!」
おじさんはカウンターの所にリュックとなんだかよくわからない怪しい小瓶と薬草と包帯とこの辺りの地図、それから立派なゼ◯ダシリーズのリ◯クが使う聖剣によく似た剣を持ってきた。
「わぁ…!」
「勇者様にはこの勇者様キットがピッタリだと思ってな!」
ネーミングセンスはダサいけどTHE勇者って感じ!おじさんわかってる!!
「あっでも防具は…?」
「防具?防具なんかは勇者様が着ているのより良いのはねぇなぁ…」
えっ!?こんなヒラヒラな服が!?あんなガッチリした服より!?防御能力ゼロでしょ!?
「その服は聖服だろ?聖服は神の御加護を受けた服だから破れにくく見映えも良い!かなりの優れもんだ!」
誇らしげに言うおじさんはやっぱりちょっと変態みたい。
「じ、じゃあこっちだけ貰おうかな…これでいくらですか?」
「おう!勇者様キットは金貨1枚と銀貨50枚だ!」
一瞬だけ思考回路が停止した。
当たり前かも知れないけどお金が円じゃないんだなぁって思ったのと私はこの小袋の中身を確認していなかった事を思い出したから。
大丈夫!王様のお小遣いだよ?きっと金貨が3枚くらいあるんじゃないの?
恐る恐る中を見てみると金貨と思われる物が0枚、銀貨らしき物が12枚、多分これは銅貨と思われる物が5枚。
………。
ぜんっぜん足りないんですけど!?!?
お小遣いって文字どおりお小遣いなのね!?ほんっとに少しなのね!!?
「ん?どうかしたかい勇者様?」
「あっ…えっとぉ…先に試着してみても良いですか…?」
「おうともさ!」
おじさんの笑顔が眩しい!!買えないなんて言えない!!!!
リュックの中に怪しい毒でも入っていそうな小瓶と薬草と包帯に地図を詰めた状態で背負い、鞘に収まったマ◯ターソードを背中に…と思ったんだけどリュックが邪魔。
あれ?何でリュック…?
普通の勇者にはドラ◯もんの四次元ポケットみたいなアイテムボックスがあるはずじゃ…
そういえばステータスを確認できる物も見当たらない…
しまったぁ…突っ走らないで女王様や王様に聞けばよかった…!
正直このおじさんが解るとは思えないけどダメ元で聞くだけ聞こう。
「あの…相手の体力とかレベルとか人目で解るステータスが見えるような道具とか 四次元に収納できるアイテムボックスみたいなのってない…?」
「ステータスが見えるようになるのはこの小瓶 この中身をイッキ飲みすりゃ死ぬまで見れるが途中でやめたら効果は1日しか持たねぇ一口程度なら一時間ってところかねぇ 匂いがキツいから飲むなら誰も居ないような草原で飲むことをオススメするぜ」
おじさんは鞄の中に入った怪しい小瓶を指差す。
コレは敵にぶつける毒物だと思ったんだけど私が飲むのか。
「じゃあアイテムボックスは?」
「アイテムボックスは賢者とかのレベルじゃなきゃ難しいしなぁ」
てことは自分の能力値を知ることが出来るまではリュックがなきゃキツいって事になるのね。
となるとマ◯ターソードは背負えないし諦めるべきか…
となるともう少し短めで細身の剣というより刀みたいなのがあれば…
そう思いながら探してると都合よく壁に理想の刀が壁に飾られている。
「この剣じゃなくてこっちの剣にしたらいくらになりますか?」
「そうだね…それならば金貨1枚って感じだね」
うん!買えない。
個別の値段は分からないけど刀とマ◯ターソードを変えたのに銀貨50枚分しか変わらないなんて…
「…因みに勇者様の持ち合わせは…?」
冷や汗が止まらない私を見て不審に思ったのかおじさんは心配そうに訪ねてきた。
私はすっと王様のお小遣いを差し出すとおじさんは中身を確認するなり笑った。
人の財布の中身を見て笑うのは失礼だと思う。
「あー…なんだ…相手は勇者様だしな!銀貨10枚でどうだ?」
「えっ?」
「本当ならタダって言ってやりてーんだけどさ流石にキツいからせめて銀貨10枚でどうだ?」
「いっ良いんですか!?つけとかじゃなく!?」
「おうよ!勇者様はこの街を出ていくだろう?なのに俺がこの街に縛り付けちゃあ申し訳ねぇからな」
金貨1枚の品が銀貨10枚!?おじさん優しすぎるでしょ!!
おじさんなんて呼び方失礼だ…
今度からおじ様と呼ばせて貰おう!
私はおじ様の御言葉に甘え銀貨を10枚渡して冒険道具一式(?)を手に入れた。
武器屋から出た私はとりあえず例の小瓶を飲むため草原へと向かった。
人に誰も居ないような草原を聞き歩いてる内に国の正門から外へ出た広い草原まで来た。
正直ここまで来る必要が合ったのかと思ったけどとりあえず小瓶の蓋を開けた。
「うわっくっっっさ!!」
開けた瞬間の臭いは腐ったバナナと1週間洗ってない靴下の臭いを混ぜたような臭い。
嘘でしょ?これを飲むの…?
こんな臭いだけれど味は美味しくないなんて決め付けては行けない!
私は臭いを我慢し口に含むと勢いよく吹き出した。
一口飲むどころか口に入れた瞬間でアウトだよコレは!
口に含んだ瞬間広がるのはやっぱり腐ったバナナの味で、何故だかじゃりっとした感触と土臭さと溢した牛乳を拭いたまま洗い忘れた雑巾の臭いを思い出す後味。
泥団子を腐ったバナナと臭い雑巾の絞り汁で溶かした物の様。
コレを飲む人は勇者だよ!いろんな意味で!
あっでも、辛うじて見えるようになったよ!ステータス!!
ここまでは私の知ってる異世界物と違う所が多かったけどコレは変わらないであろうトリップや転生した人の特権。
つまりはチート能力!
【名:本田明音〈ホンダアカネ〉】【歳:16】【LV:1】
【HP:5/10】【MP:14/14】
【魔法属性:現在測定不可能】
【異名:最弱勇者(笑)】
ちょっとまて。
私は見間違えかと思って目を擦るが数字も、書いている文字も何一つ変わらない。
「チート!!チート能力どこ行った!?チートは異世界物の相場でしょ!?それに何この体力!?1レベのポ◯モンでも12はあるんだよ!?しかも何でダメージ受けてんの!?さっきの小瓶!?さっきの小瓶か!?やっぱりアレには毒でも入ってたの!?大体異名!異名が何で【最弱勇者(笑)】なのよ!ケンカ売ってる!?ケンカ売ってるよねぇ!?」
私以外誰もいない草原で叫んだ。
うん、とりあえず一度帰ってゆっくり考え直そう。
そう思い立ち上がるとガサガサと草が揺れる音。
嫌な予感がしたけどそんな事無いと信じて振り替えるけど見て。
【野生のゴブリンが飛び出してきた!】
見事予感的中だぁ!!
正直泣いてしまいたい。
【名:ゴブリン】【LV:21】
【HP:124/124】【MP:25/25】
ねぇ知ってる?私最弱勇者!レベル1。
20レベも差があるんだよ!勝てないねー!
魔王を倒す旅に出てから30分。
私は勝てないモンスターと遭遇し死を悟り、どうしてこんなことになってしまったのか今日の出来事を走馬灯の如く思い出した。
軽率な行動がいけなかったんだね。
死ぬ前に家族に会いたかったな。
憧れの異世界…憧れの職業…それなのにこんな終わり方って…
金棒を振り上げるゴブリンの攻撃をかわす事を諦め死を受け入れただただ降り下ろされる金棒を眺めていた。
「あぶない!」
その声と同時に私とゴブリンの間に綺麗な水色の髪の美青年が割り込む。
青年に呆気なく倒されるゴブリン。
死を考えていた私は腰が抜けてそのまま地面にしりもちをついた。
間一髪の所で人を助けるその姿はまるで勇者ー…
「お怪我は有りませんか?勇者様」
目線を合わせるために膝をつけて私の顔色を覗く青年はにこりと笑ったが私の心を占めたのは別の事。
「…ないで…」
高校生にもなってとは思ったがもう感情は押さえられなかった。
余りにも勇者にしては情けない自分を憧れの職業の勇者なんて認められない。
「勇者様って呼ばないでぇぇぇぇぇ」
相手を困らせるのは分かったけど草原で大泣きした。
気ままな更新なのでお待たせする期間が長いと思いますが待っていただけると嬉しいです。




