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厨二病の俺はナイアーラトテップと踊りがちだが正直ハーレムが作りたい

作者: 柔花海月

 時は近未来――クトゥルフ神話とファンタジー世界を融合した硬派なVRMMORPGが大流行!


 俺は、その硬派な世界観で硬派なガチプレイがやりたくて、硬派なキャラを作る事を決意した。


 目指す方向性は――クール! イケメン! なんか陰のあるかんじ!


 たっぷり数時間掛けてキャラメイクの末……

 これぞ理想的なクールで陰のありそうなキャラ出来た! 表情レベルも最低限にしたし……これで何があってもうっかり大笑いなんて野暮な真似はせずに済むというわけさ。

 これで大活躍したら、たちまち女性ユーザーにもモテモテだ! ムフフフフ……!


 そして外見はやはり……黒髪と黒マント!

 おおっ、これはランダムで配布される初期装備の中でもレアアイテムと言われる『漆黒のマント』じゃないか!

 ステータスが高いわけじゃないが、バフスキルであるステルス(隠密)持ち!


 このマントがあればこっそり忍び寄って知らず知らずのうちに……って暗殺者プレイができるって寸法だ!

 ってことはつまり……これはもう、あのジョブしかない!


 そう! ダークナイトへと進化する可能性を持ったジョブ、王道のジョブ! ナイトしか無いぜ! クールな俺のキャラにピッタリだしな!

 ATKとQUIにボーナスポイントを全振りして……っと!


 出来た! 俺の理想的なキャラクター! 二つ名は『漆黒の堕天騎士ルシファー』! ユーザー名は……あのラグナロクを引き起こしたという北欧神話の邪神にあやかって『ロキ』にしよう!


 さてさて、いよいよジョブの選択画面か……


「ご飯よー! 降りてらっしゃーい!」


 チッ、ヘッドギア越しに母ちゃんの声が聞こえる。興ざめだ。

 これからだって時に……!


 かといって無視していたらわざわざ部屋に乗り込んできて勝手にゲームの電源を落とすような母ちゃんである。

 ……仕方がない、ヘッドギアを外して返事をしてやるか。


 パカッ。


「先に食っててよー! 後で行く!」


 よし、これで集中して……


 パカッ。


 ……ん?


 お……おお?! 既にジョブが選択済みになってる……?! ギアを外す時に手が滑っちまったのか!


 なに?! 『ブリーダー』……だと……?

 んおおおぉぉぉぉ!!

 なに俺の指端っこのボタンうっかり押して牧歌的なジョブ選んでんの?!

 真ん中押せよ! この真ん中の一番押しやすい場所にある『ナイト』のボタン押せよ!


 うおわああぁぁぁぁ!!


  ◆  ◆  ◆


 とりあえずこのまま始めてみることにした。

 だって、せっかく何時間も掛けて作ったキャラクターだぞ?! その上レアアイテム持ちの初期スタート! 消すには勿体なさ過ぎるじゃないか!


『転送が終了しました』


 ……あん? マップ名『深淵』? それにしても辺り一面真っ暗だな。

 ああそうか、今からイベントが始まるのか。


 って……なんか出てきた!!

 にょろにょろ出てきた! キモイ触手の塊が暗闇からにょきにょき生えてきた!!


『這いよる混沌ナイアーラトテップが現れた』


 は? 這いよる混沌?!

 キモイ物体がズルズルと触手を引きずりながらこっちに迫ってくる……!


 こええぇぇ! ゲームだってわかってるけど怖い! キモイ! こっちくんな!

 そ、そうだ! スキルだ! スキルスキル……!


 スキル発動:『テイム(捕獲)LV1』


 って俺なにイベントモンスター相手にテイム(捕獲)ってんの?!


『確率:0.00%』


 ほらやっぱり!


『捕獲しました』


 捕まえたあぁぁぁぁ?!!!!


テイム(捕獲)LVが35ランクアップしました』


 めちゃランク上がったあぁぁぁ!!


  ◆  ◆  ◆


『転送が完了しました』


 おお……今度は村に出た。

 それにしてもさっきまで長いムービーが流れていた。


 なんでも俺は新大陸へ船旅の途中、這いよる混沌が生み出す世界に巻き込まれそこで一度死んだらしい。

 って、死んでねぇし。テイムっただけだし。


 とりあえず目の前にいる『治療師』とかいう爺さんに話し掛けてみるか。


「おお……ようやく目が覚めたようだな。蘇生が早かったのが幸いしたか」


 ああそうね。俺のHPゲージは満タンだったけどね!


「それにしても……這いよる混沌に遭遇してしまうとはツイていなかったな。お前は混沌に一度殺された時、呪詛を掛けられてしまったのだ」


 いや、殺されておりませんが……。

 捕まえたと思ったら、いきなりここにワープしただけですが。


「呪詛を解くには這いよる混沌を殺さねばならぬ。やつに再び出会う為には裏世界へ行かなくては……」


 俺の隣でうにょうにょしてんのって何かな? ねえ、なにかなー……?


「這いよる混沌と会った事のある者は数百年に一度出るか出ないか。運が悪かったと思うしか……」


 ねえ、今めっちゃキミの前に居ますよ? キミの目の前に居るよ? ねえってば。



 ……うん。

 多分これ、バグだわ。


  ◆  ◆  ◆


 とりあえず長い爺さんの話も聞き終えた事だし、ステータス画面を見るか……。

 おお、這いよる混沌強っ! 俺のステータス弱っ!


 ちっ……しゃーねぇな。俺の相棒として認めてやっても……

 うん? なんだこのコマンドは?


『騎乗』……だ……と……?


  ◆  ◆  ◆


 うおおおお! すげえはええぇ!

 そして触手の動きもすげぇはえぇ!!


 どうやら速く動けば動くほど触手もまた速くうごめくようだ。

 そして俺はその高速でうごめいている触手の一本一本を華麗にかわしながら乗っていた。


 騎乗レベル80を要求されるこの超上級者向けモンスター。

 普通ならば簡単に振り落とされてしまうだろう。


 しかし大丈夫! ブリーダーってのはどうやら騎乗に特化した専用ジョブを持っているらしい。

 あらゆる高レベルのモンスターを乗りこなすことができるジョブ、『ライドマスター』! それが俺を優秀な這いよる混沌ライダーへと昇華……――


「な、なんだありゃ?!」

「這いよる混沌だ!! なっ、なんでだ?! そんなイベントこのマップには……――」

「いや違う、あれプレイヤーの物だ!! ほらよく見ろ、触手に埋もれぎみだけど『漆黒の駄天騎士』って名前が! 『ロキ』って名前が!」


 他のプレイヤーが俺のこの雄姿を指差してやがる……!


「いっ、いたぞ! 騎乗プレイヤーだ!」

「なっ、なにいぃぃ?! あいつッッ……!」


「「……混沌と踊っている……! 踊っていやがる……!!」」



 後日、動画サイトに俺の姿が上げられていた。


 そこには確かに、高速で蠢く触手の動きに似たような速度でシンクロしながらステップを踏んでいる俺の姿が……!

 しかも感情レベルを目いっぱい落としていたせいで真顔だ。すんごい真顔だ。画面の俺、触手の上で超クール。


  ◆  ◆  ◆


『ログインしました』


「おおっ! ヤツが伝説の“這いよる漆黒ダンサー”……!」

「すげえ! マジモンじゃん! すげえ!」


 俺氏、有名になった。

 しかし誰も俺の正式な二つ名を呼んでくれなかった。


 ハーレムは作れなかった。

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