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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
【第三部《上》・英雄定義篇】英雄連合、集いて和衷協同を誓う
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87◇神速の英雄、抱擁ス

 



 観音開きの重厚な木製扉の前に、クウィンがいた。

 幸助を見つけると、ほんの僅かに口許を綻ばせて喜びを露わにする。

「ク――」

 ロ、と呼ぼうとしたのだろう。

 それを遮る者がいた。

「クロたすだ~」

 寸前まで、影も無かったというのに。

 一人の少女が幸助に抱きついていた。

 ふわふわと波打つクリーム色の毛髪が腰まで伸びている。

 容姿はとても整っていて、柔和な印象を受ける。笑うと綺麗な糸目になるタイプだ。

 身長はそこまで高くない。

 そして、巨乳だった。

「あ、あぁフィオ。おはよう」

 クウィンの瞳から光が消えたように感じられて、幸助は少し焦った。

 技術国家メレクト所属、『神速の英雄』フィオレンツァーリ=ランナーズ。

 愛称はフィオ。

 どうにも天然というか生きている次元が違うというか、アリスとは違って危険性は感じないものの、いまいち話が通じない少女だ。

 そしてまた格好が凄い。

 墨状(ぼくじょう)人工魔法式(じんこうまほうしき)紋身(もんしん)

 技術国家メレクトの最新技術だそうだ。

 魔法というのは、体内の魔力を、脳内で組み上げた魔法式に注入することで魔法になる。

 魔力が万能の材料で、魔法式はオリジナルレシピといったところだ。そして魔法が料理。

 墨状人工魔法式紋身――通称魔法紋は、言わば魔法式を刺青いれずみにしたものだ。

 魔法式は通常脳内で組み上げるもので、明確な形というものはないのだが、メレクトの魔術師はそれを解析し紋章として再現することに成功した。

 当然魔力が無ければ魔法にはならないので、英雄の魔法式を他人に刻んでも無意味だ。無理に発動しようとすれば魔力枯渇で死に至ることもある。

 では本人の魔法を本人に刻むならばどうか。

 単純だ。脳内で魔法式を組み上げる時間が短縮できる。

 ただでさえ英雄は魔法発動までの時間が短いが、それをゼロまで縮めることが出来る。

 幸助は保有スキルから元々一瞬に近い速度で魔法を発動するが、それは一般的では無いらしい。

 魔法紋は紋章の作成と、実際の施術に長い時間が掛かり、かつ施術には激痛を伴うという。

 だが、フィオはそれをほぼ全身に刻んでいた。

 彼女の格好は、もといた世界で言うならネグリジェが近い。

 とても扇情的な格好である。

 これの理由もまた単純明快。

 魔法使いが好んで着用する対魔法素材だが、これは魔法紋の発動を阻害してしまう。

 そして対魔法素材以外の衣類は、魔法耐性を持たないので魔法紋起動で容易く綻ぶ。

 よって、最初から魔法紋を彫った箇所には何も身につけない方がコストパフォーマンスが良い、ということらしい。

 『神速の英雄』という名前の由来だ。

 彼女は魔法紋の開発に多大な貢献をし、初の成功例でもあるという。

 無論、英雄規格のステータスは元々持っていた。

 心強い味方だ。

 心強い味方、なのだが……。

「クロたす~」

 幸助の腰に抱きつき、匂いなどを嗅いでいる姿を見るととてもそうは思えない。

 よくわからないが、幸助は気に入られたらしい。

 彼女曰く、「匂いとクロたすって名前が素晴らしいんだよ~」とのことだが、クロたすというのは彼女が勝手につけたアダ名で本名じゃない。

 意味不明だった。

 トワが後ろで「此処が日本なら、絶対ただのぶりっ子なのに……」と呟いている。

 そう。もといた世界にも、特に学生という身分の時期にありがちなのだが、キャラクターを作って演じる者はそれなりの頻度で見かけるものだ。

 男子でも格好つけたりはよくあるが、女子の場合はそれが多岐に渡る。

 天然キャラというのは、比較的よく見るタイプではないだろうか。

 しかしここはアークレア。

 無数の異界から、多くの来訪者が転生してくる特殊な大陸。

 本物の天然キャラが存在する異界があっても、なんらおかしくない。

「あ、トワたんもいたんだね~ トワたんも好き~」

 フィオの標的はトワに移ったらしい。

 それにしても、トワたんと来たか……。

「わ、わっ、抱きつかないでっ。巨乳は敵だ、シロさん以外の巨乳は敵だっ!」

 ……シロはオッケーなのか。

 基準はよくわからない。

 クウィンがここぞとばかりに幸助に腕を絡める。

「……その子と、仲良し?」

 どこか拗ねたようにも聞こえる口調だ。

「どう、かな……。普通だと思う」

「……わたし、は?」

 その瞳が不安に揺らいでいるように、幸助には見えた。

「仲良し、だよな。俺はそう思ってるけど」

 そこでようやく、クウィンの表情から険が消える。

「……うん、仲良し」

 その豊満な胸の谷間に、幸助の腕が挟まれた。

 どことなく郁郁たる香り椿を思わせる彼女の匂いが鼻孔をつく。

 いつもならそっと離れてようとするところなのだが、なんとなく今は出来なかった。

 彼女が満足気なので、よしとしよう。

「トワたんトワたーん」

「ちょっ、やめっ……コウちゃん!? 助けてよ……!」

 幸助は後ろでフィオにもみくちゃにされている妹の嘆きを、そっと無視した。




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