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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
【第三部《上》・英雄定義篇】英雄連合、集いて和衷協同を誓う
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86◇英雄兄妹、出向ス

 



 リガルの葬礼から更に三日が経過した。

 あの一件で幸助の知名度は爆発的に上昇し、今では王都を歩いているだけで視線が集まってしまう。

 家を特定し押しかけてくる者まで現れ始めたので、エコナを伴ってトワの家に避難した程だ。

 英雄が第一外周に家を構えるのは、余計な騒ぎを避ける為という意味合いも強いのかもしれない。

 家を貰った当時はここまでの展開を予想もしていなかったが、当分戻ることは出来無さそうだ。

 元より今後はのんびり家で過ごすことなど出来そうにないのだが、エコナには不便を強いることになってしまうのが申し訳なかった。

 健気な彼女はそんなこと気にしませんと明るい微笑を向けてくれたが……。

「ねぇコウちゃん、トワの話ちゃんと聞いてる?」

 王城内だ。

 広い廊下を幸助とトワが進んでいる。

 並んで、ではない。

 二人共軍服に上位軍人であることを示すロングコートを羽織っているのだが、トワは幸助の後ろにピタっとついて彼のコートの背中部分をつまんでいた。

「……あ? あぁ、なんだっけ。身長が伸びなくて悩んでるんだっけ」

「違うし」

 尻を叩かれた。

「お前な、女から男にもセクハラは成立するんだぞ」

「で、話聞いてたの?」

 無視である。

 いっそ清々しいまでに妹だった。

「ちゃんと聞いてたよ」

 アークレア大陸の平和を乱す帝国――アークスバオナ。

 彼の国の目的はアークレア全土の掌握に留まらず、異界をも侵攻対象に含めている。

 膨大な数の異界があることを考えれば可能性の面では相当に低いだろうが、幸助やトワのもといた世界が狙われることも無きにしも非ず。

 これは看過出来ない。

 あの日本には、両親や友人がまだ生きているのだ。

 彼らに顔向け出来るような人生は送れなかったが、だからといって幸助にとって大事な人間である事実は変わらない。

 そして、アークレア大陸諸国としてもアークスバオナの侵攻に従うわけにはいかない。

 主権を侵され、国民は奴隷に落とされる。

 誰が好き好んで服従出来ようか。

 というより、アークスバオナはわざと戦争が激化する道を選んでいるように感じられた。

 最初から、敵に逃げ道を作るつもりなど無いのだろう。

 ダルトラを中心に、英雄を集結させようとする動きがあるのは当然の流れ。

 それすらも、アークスバオナの計算の内かもしれないが。

 ぷちぷちと潰すより、強い奴らが一塊になっている方が楽とでも考えているのかもしれない。

 強者の考えは時に弱者の常識を超える。

 有り得ないとか馬鹿馬鹿しいとか非効率的とか非合理的とか、既存の価値観を持ったままでは対抗出来ない。

 考えるべきはそう多くない。

 敵が実行可能な策は何か。

 そしてそれらのどれか、あるいはどれにも当てはまらない何かが実行される時、どうするか。

 それを話し合い、同時にすぐさま動き出せるようにと、各国の軍事力が王都周辺に集結しつつあった。

 そして今日ついに、アークレア連合軍とでも呼ぶべき組織に含まれる英雄のほぼ全てが王城に集まっていた。

 ギボルネとの和平交渉へ出ているルキウスと、ノエルビナフ戦役にて力を振るうパルフェは欠席だ。

 英雄の内訳は、

 情報国家ラルークヨルドが三名。

 技術国家メレクトが二名。

 宗教国家ゲドゥンドラが四名。

 商業国家ファルドが二名。

 魔術国家エルソドシャラルが一名。

 英雄国家ダルトラが六名。

 計十八名。

 アークスバオナに潜入中の諜者によると奴らは二十名を超え、それも正確な数字とは言えないかもしれないとのことだった。

 戦いの勝敗は単純な保有英雄数で決まるわけではないが、それでもこれでようやく敵の後ろにつけたという数字。

 魔法具によってステータスを英雄に近づけた擬似英雄や、神創魔法具のレプリカを装備した兵士の運用も然ることながら、連合における指揮系統の統一は急務だ。

 そんな中、確か妹が言っていたのは……。

 幸助は思い出して、苦笑した。

「お前に寄って来る変な男がいたら追い払ってやるよ。兄貴だからな」

 民間人や軍人だろうと、トワを『紅の英雄』と知って口説こうとする愚か者はそういない。

 しかし、英雄連合とでも言おうか、十九名の集団の中にいたのだ。

 トワに熱烈なラブコールを送る男が。

 連合国家の英雄なので武力で鎮圧などすれば問題になってしまうし、幸助から見ても情熱的なアプローチ以上ではないので害は無いと思うのだが、トワは嫌だと言う。

 過去の記憶を思い出したこともあって、男嫌いが加速しているように思える。

 それを知っている身としては、その傷が癒えることを望みながら、それまでは多少甘やかしてもいいのでは……と思ってしまうのだ。

 兄や姉なら、疎ましく思いながらも最終的に弟妹を甘やかしてしまう心境が分かるのではないかと思う。

「ほんとにほんとだからね? ほら指切りして。指出せ指を」

 幸助の手を取って無理やり指切りの形を作ろうとするトワ。

「そんな嫌か? 面白い奴だと思うけどなぁ」

「トワはね、一目惚れとか言う人を信用しないの。見た目に惚れたってことでしょ? トワはお人形じゃないんで」

「あぁ……なるほど」

 幸助は一目惚れされる程上等な見た目をしていないので完全に同調は出来ないが、言わんとしていることはよく理解出来た。

 言うなれば、異性に「あなたの財力が好きなの!」とか「あなたのスポーツの才能一点のみを愛しているの!」とか言われるようなものなのだろう。

 もし幸助だったら、それがどんな美女でも確かに素直に喜べそうにない。

 もちろんそれだって自分の能力には違いないのだから、好きになってもらえたという事実は揺らがないが、やはり中身を愛して欲しいという願望がある。

 少なくとも、幸助とトワにはそういう気持ちがある。

 だから、一目惚れという恋の理由は素直に受け取れないものらしい。

 見た目というのは、もっとも外側にある自分の中身だというのは、どこで聞いた言葉だったか。そういう風に思わなくもないが、今言うことでもないかと幸助は言わないでおいた。

 もうすぐ、会議室に到着する。




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