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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
【第三部《上》・英雄定義篇】英雄連合、集いて和衷協同を誓う
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85◇黒の英雄、壮語ス

 



 きっと、彼のように考える者も多いのだろう。

 それだけ、一部貴族の犯した罪は重い。

 ダルトラ王が隠蔽しようとするのも、悔しいが理解出来た。

 我利私欲を追い求めるあまり、アリス達一部貴族の目はこの結果すら見通せぬ程に曇っていたらしい。

 尻拭いを任せられるのが王室と英雄、そして軍部であることを考えると、その度し難さはそれこそ目も当てられない。

 幸助は男を連行しようとしていた兵士達を呼び止めた。

 男の身体を幸助の側に向けさせる。

 腰に吊るした大剣型聖装『黒士無双』の柄に手を掛ける。

 男は僅かに顔を引き攣らせながらも、強気のままだ。

「へ、へへっ……。なんだよ、それで俺も殺すってのか? やりゃあいいだろう」

 幸助は笑う。

「その発想が理解出来ません。我々英雄は護国のつるぎであり盾。臣民を護ることはあっても害するなど以ての外」

「だ、だったらその手はなんだよ」

 幸助は剣を抜き、天に掲げる。

「先程、仰られましたね。自らを死に陥れる国家へ属するなど正気を疑うと。えぇ、まったく以ってその通りです。何故そんなことが出来るのか、お答えしましょう――【霹靂かみとけ】」

 轟音が鳴り響いた。

 幸助を除く全ての人間がそれに身を震わせる。

 殷々たる雷轟は遥か上空から地上まで一瞬で駆け抜けた。

 何度も何度も、雷槌が天を奔る。

 誰もが空へと視線を吸い寄せられ、それが高まった時に幸助は念じる。

 幾条もの雷が天空で撚り集まり、落ちた。

 幸助の掲げた大剣へと。

 元々そういう魔法式を組んでいたのだ。

 稲妻を纏った大剣を掲げた状態で、幸助は声を張り上げる。

 目の前の男だけではなく、此処に居る全ての者に対する言葉だ。

「我々は他ならぬドンアウレリアヌス卿に正義を託された! ドンアウレリアヌスはダルトラに尽くした我らが同胞! であればこそ、我々は出奔ではなく浄化を選んだのだ! 彼の者の意思を継ぎ、正しき者が正しく報われる世界を形作る為に!」

 既に、涙を流している者はいない。

 全ての人間の視線は幸助に集中している。

「真の英雄は死してなお我々に大いなる志を遺した! 既に腐敗貴族の一掃は完了している! 罰は単に処刑ではなく、彼らの力を国家の発展に利用する形で与えることとなった!」

 一拍の間を置いて、叫ぶ。

「『霹靂の英雄』は去れども、その正義は変わらず此処にあるのだ! 我が名において誓おう、平和の実現と、正義の完遂をッ……!」

 腰だめの構えから、空に向かって剣を薙ぐ。

 切っ先から雷撃が放たれ、大空で爆ぜた。

「私は彼の者に力と志を託された! 名を、クロス・クロノス=ナノランスロット!」

 声が響き渡り、大気に染み込んでいく。

 その余韻が消えるか消えないかの時だ。

 歓声が爆発した。

 唖然とする男に、幸助は言う。

「あなたの気持ちは理解出来ます。ですが、リガルの葬儀を妨害した罪は償っていただく」

 連行される中、男は問いかけるように幸助を見た。

「……出来るのか、お前に」

 幸助は、再び微笑む。

「やるんだよ」

 答えつつ、幸助は内心自分の一連の行動に驚いていた。

 例えば強烈なカリスマを持った指導者が死んだ時。

 その息子や関係の深かった知己が次代の指導者に担ぎ上げられるという事態が間々ある。

 人は、自分の認めた人間の言葉や行動を好意的に解釈しがちだ。

 その相手に何を見出すかは、個々人の自由だろう。

 人間はその好感情を、対象が死んだくらいでは失くせない。

 だから、代替物を見つけると、ここぞとばかりに好感情を向ける先と認めてしまう。

 自分が認めた大物の息子だから、つい期待してしまう。

 自分が認めた人間が生前から親友と言っていたのだから、信じていいのだろう。

 そんな具合に。

 ある種の狂熱だ。

 最初の人物は自分で見極め自分で選んだのだとしても、次は違う。

 選ぶことを放棄している現実に、けれどほとんどの人間は気付けない。

 幸助はそれを利用した。

 偶像と化していたリガルのそれを、強引に引き継いだのだ。

 彼の志と魔法、どちらも正しく継いでいるのだと民衆にアピールすることで。

 不安に苛まれる人々の心の隙間を、でっちあげの希望で埋めた。

 この件は瞬く間に国中に知れ渡るだろう。

 民が少しでも安心出来るなら、それはいいことの筈だ。

 兵士達の中にさえ、拳を突き上げている者がいる。

 この熱狂に呑まれていないのは英雄達だけだった。

 トワは悲しげに目を伏せている。

 エルフィは呆れたように苦笑していた。

 クウィンは哀れみさえ感じる視線で幸助を見つめている。

 最善だと思ってやったことだ。

 おそらく、結果もそう悪いものにはならないだろう。

 けれど、浅学な幸助には分からなかった。

 今の自分は、果たして。

 先導者(せんどうしゃ)なのか。

 それとも……。

 煽動者(せんどうしゃ)なのか。

 胸の内の疑問に答えてくれる者は――いない。




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