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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
【第三部《上》・英雄定義篇】英雄連合、集いて和衷協同を誓う
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84◇闖入者、怒号ス 

 



 王城の南門から第四外周南門前まで向かい、そこから反時計回りに進み第四外周北門前へと。

 そこまで来たらそのまま王城の北門に向かい、最後は王本人からの弔辞を賜る。

 大まかなな棺の進行ルートと国葬の流れだ。

 大体三時間から四時間、場合によってはもっと掛かると言われた。

 ルート上の警備に多くの軍人があてられ、反して棺の護送に直接関わる者は極少数だ。

 英雄四人と、棺を載せた馬車の馬を引く者二人。

 この時、馬を引く者はあくまで馬に跨ることは無い。

 馬車を間に挟み、前方に幸助とトワ、後方にエルフィとクウィンという配置だ。

 ダルトラ出身の英雄としてクウィンが馬車を先導する形の方がかどが立たないと幸助は思ったが、『黒の英雄』の存在をアピールする為にもということ、更にクウィン自身が陣頭に立つことを望まなかったこともありこの形に落ち着いたという経緯がある。

 『黒』と『白』が前後に分かれているのは、万が一闖入者が現れた際に迅速な対応を執る事が出来るようにだ。

 予定通り、昼前に出棺が始まる。出発点が家ではなく王城なので言葉の選択は間違っているのかもしれないが、幸助は他に適切な語を知らない。

 第一と第二外周は貴族の邸宅と貴族街。よって哀悼を捧げる人間は比較的少なく、かつ喪服も貴族らしいというか、作りが凝っていたりする。

 当然、リガル殺しの件と一切関与していない潔白の貴族達だ。

 貴族であるプラスと同行していたことで入場許可を得たのか、エコナの姿も見かけた。

 第三外周に突入した瞬間、どっと人数が増える。

 所狭しと人々が立ち並び、リガルの死を悼んで涙を流していた。

 ハンカチらしき布で涙を拭っているのは圧倒的に女性が多いが、男の中にも瞳を潤ませていたり涙ぐんでいる者が散見された。

 葬式というのは、死者に礼を払うものであり、同時に生者の為のものでもある。

 別れの儀式を用意することで、対象人物はもういないのだと明確に心に刻みこむのだ。

 最期の後の、最後。

 人は線引きをしないと生きていけない。

 時間ですら年で区切り、それを月で区切り、週で区切り、日で区切り、一刻で区切り……とどこまでも細分化していく。

 あまりに大きすぎるものは捉えるに難しいから、認識可能なレベルまで落とし込むのだ。

 人の死というのも、ただそうと受け入れるのはとても難しい。

 だから墓を用意し、死後も逢おうとする。

 ただ、今までとはどうしても変わってしまうから。

 その節目として、境界として葬式を執り行うのではないか。

 過去生でトワが殺されるまで、幸助は死について深く考えたことが無かった。

 トワの死後も、深く考えたかと訊かれればそうでもないと答えるだろう。

 ただ、大切な者の命がどれだけ重いかを理解した。

 それを奪った者の命がどれだけ重くとも、摘み取らなければならないと復讐心に駆られた。

 そして、今この瞬間。幸助が感じているのは。

 リガルの命、その重量。

 あまりにも、重い。

 涙だけではなく、嘆きの声を漏らす人間も多くいた。

 王室への暴言を吐けば侮辱罪で裁かれるからか、おおっぴらに批判する者はいないが、腐敗貴族を危うく野放しにするところだったダルトラ王への不満を抱える者も少なくない様子だ。

 国民達の怒りは尤もだ。

 幸助も、感情で言えば彼らの側である。

 しかし、過ちは正さなければならないと言うのなら。

 最も正すべきは敵国アークスバオナに他ならない。

 国内の浄化がほぼ済んだ今、臣民の悪感情を晴らす方法を考えるのは急務と言えた。

 それが英雄の領分なのか、判断はつかないが。

 横目でトワを見ると、彼女自身も目許に涙を湛えていた。

 何か声を掛けてやりたいが、そういうわけにもいかない。

「おいッ!」

 それは、南門前に到着した、という時だった。

 初めて幸助が王都ギルティアスに来た際、通った門である。

 軍人を突き飛ばして進行上に立ち塞がったのは、赤ら顔の中年男性だった。

 一目見て酔っ払っているのが分かる。

「ドンアウレリアヌス将軍は貴族共に殺されたんだろ!? だってのに国葬だァ? お前ら英雄共も何呑気な面晒して行進してやがんだよ? 次はお前らかもしれねぇんだぞッ!」

 幸助は冷静に馬車に一時停止を命じながら、男の言葉を聞いていた。

「そもそもクソ貴族の奴らを処刑しねぇのはなんでだ? なぁおいシンセンテンスドアーサー将軍よぉ! お前が犯人って時は処刑処刑と告知してやがったのに、いざ犯人が貴族様でしたってなった途端なーんも情報が下りてこねぇ。そんな扱いで、お前らよく英雄なんかやれるもんだな! 頭大丈夫か!」

 そこでようやく男が取り押さえられた。

 暴れ回るので、三人がかりで拘束される。

 トワは視線を下げ、唇を噛んでいた。

 後方のクウィンとエルフィにはこっちに来る必要無しと手で制する。

 男性はなおも喋り続けていた。

「真の英雄は死んだ! ドンアウレリアヌス将軍はオレがガキの頃から国を護ってたんだぞ! それを国が殺したんだ! それに黙って従うクソ共が、英雄を騙るんじゃねぇよ烏滸おこがましい!」

 民衆の視線が突き刺さる。

 誰もが固唾を呑んで事態の推移を見守っていた。

 乱入者がいるから捕まえて排除しました、という結果を求めているわけではないだろう。

 男の言葉に英雄がどう返すか、それを気にしているのだ。

 トワを矢面に立たせるわけにはいかない。

 英雄をやめたがっているクウィンはもちろん、戦闘員ではないエルフィに振るのも間違いだ。

 つまり、幸助だ。

 少年しかいない。

 どうする?

 どう返すのが正解だ?




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