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復讐完遂者の人生二周目異世界譚【Web版】  作者: 御鷹穂積
【第三部《上》・英雄定義篇】英雄連合、集いて和衷協同を誓う
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83◇神癒の英雄、興奮ス

 



 エルフィこと『神癒の英雄』――エリフィナーフェ・フォルヴァンテッド=ローゼングライス。

 トワの主治医であり、英雄規格と認められた精神調律魔法医。

 ここ最近はリガル暗殺事件関係者の取り調べに忙殺されていたようだ。

 魔法で証言の真偽を見抜き、記憶を洗い流し真実を得る。

 精神を擦り減らすような作業だったろう。

 労をねぎらうべきだ。

 そう考えていた。

 彼女が居間に踏み入るまでは。

「……なにこれ、ハーレム?」

 開口一番何を言うかと思えば、結局エルフィはエルフィだった。

 魅惑の肢体も今日は軍服で覆われている。

 プラスのものとは違い、掛けている眼鏡もどことなく大人の魅力を増すアイテムと化しているように思えた。

 豊満な胸を持ち上げるように、腕を組む。たゆんっ、と盛大に揺れた。

 エコナとトワがそれだけでダメージを受けたような顔をした、ように見えた。

「す、素晴らしいわ……。黒髪貧乳少女・妹。青髪貧乳幼女・家事手伝い。金髪巨乳美女・英雄。金髪美乳美女・元軍人。そして桃髪爆乳美女・エロ医者。これはすごいことよクロ」

 何がすごいって、自分で自分を爆乳エロ医者と表現する精神性がすごい。

 幸助は呆れを通り越さず、しっかり呆れた。

「あぁ、すごいよ。お前の頭がな。大丈夫か? 疲れが溜まってるんじゃないか?」

 結構本気で心配する幸助に、エルフィは「当たり前よ」と答えた。

「何故なら、疲れを感じてからというものアタシは自分で自分を“調律”して常にハイにたもっているんだから。というわけでクロ、ベッドは二階よね? 六人寝れそう?」

「大丈夫じゃなさそうだな!」

「平気よ。英雄っていうのは生殖機能にもプラス補正が掛かってるの。当たり前よね? 人間を超えるレベルで打たれ強くなったり感覚が鋭くなる中、そこだけ前世準拠なんてそれこそ異常というものだもの。この世界ではね、英雄は色を好んで然るべきなのよ」

 最悪なことに言っていること自体には否定する材料が見つからなかった。

 しかし今のエルフィがいつもに増しておかしいのは確かだ。

「取り敢えず、元のエルフィに戻ってくれ」

「嫌よ。こんな機会そうないわ。六人中四人が英雄で一人が英雄の末裔よ? こんな宴、そうそう開けないわ」

「最後の一人は子供だ! 考えてものを言ってくれ」

「……仕方ないわね。彼女は抜きでいいわ。特別に耳栓も貸してあげましょう。これで問題ないわね」

「誰か医者を呼んでくれ。精神に異常をきたしている患者一名だ」

「国一の名医が此処に居るじゃない!」

 悲しいことにそうなのだった。

 トワとプラスは顔を真っ赤にしている。

 エコナは俯いてなるべく言葉を耳に入れないよう努めているようだった。

 クウィンは「クロがしたいなら、いいよ?」と軍服のボタンに手を掛けながら誘うようにぎゅっと腕に力を入れた。

「その意気よクウィン、アナタはやれば出来る子だって信じてたわ」

「……別に、エルフィはいらない、けど」

「アタシ、反抗的な子も好きよ」

「わたしは、エルフィ、あんまり好きじゃない」

 幸助は二人の口論が白熱する前に間に入る。

「待て。おいエルフィ、今日はリガルの葬儀だぞ」

 真剣な表情で言うと、さすがのエルフィも無視は出来なかったのか、眉を歪めた。

 しばらくしてから、自分の頭に手を伸ばし、何事か呟く。

 魔法名だ。

 一瞬で自分を再調律したのだろう、瞬きの次に彼女が浮かべた表情は、真面目なものだった。

「……ふぅ。ほんのジョークじゃない」

「そうは見えなかったがな」

「ところで、そろそろ集合時間だけれど」

 エルフィとクウィン以外の全員がビクっと身体を震わせた。

「ちなみにこのメンバーの中で魔動馬車を使って此処まで来たのはアタシだけよ。集合時間に間に合わせたいなら、アタシの言うことを聞くべきね」

「…………まぁ、一応言ってみろ」

「確かにさっきのあれは不謹慎だったかもしれないわ。反省もするし謝罪だってしましょう。だから、続きは葬儀が終わ――」

 幸助は無視して玄関へ向かった。

「運転は俺がする。プラス、エコナを頼んだぞ」

 クウィンは幸助に縋り付いたまま、トワは急いで席から立ち上がり、足早に玄関から外へ出る。

「冗談が通じないわねぇ」

 そう言いながら、エルフィの表情はどことなく残念そうだった。

 誰も彼も、素直に悲しみを露わに出来る程、強くないらしい。

 そういえばいつからだろう。

 涙を流したり、飛び跳ねて喜ぶことを恥ずかしいことだと思うようになったのは。

 大きく心を動かされるのは精神が未熟だから、そう言わんばかりの空気があったからかもしれない。

 少なくとも、幸助のもといた世界にはそういったものがあった。

 日々少しずつ、自分の変質を余儀なくされるような息苦しさがあった。

 妹が殺されたことでそれら全てを無視して生きるようにはなったが、それが無ければ今頃幸助はどんな人間になっていただろうか。

 少なくとも英雄にはなっていないだろう。

 ……まぁ、考えても仕方の無いことだ。

 エコナとプラスの見送りを受け、一行いっこうは魔動馬車へ乗り込む。

 クウィンはまだ腕を絡ませている。

 日中だからか人の目があるからか触れてくることはないが、トワもちゃっかり隣に陣取っている。

 エルフィが後ろから抱きついてきた。

 周囲からどう見えているのだろうか。

 『黒の英雄』が三人の英雄を侍らせているとでも映るか。

 嫌だなぁ、と幸助は思った。

 四人の英雄を乗せた魔動馬車が、王城へと向かう。




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