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9◇攻略者、冒険ス

 



 ゼストは入り口から最初、長い一本道が続いていた。

 壁面は、岩なのだからというのもおかしいかもしれないが、ごつごつしている。

 ただ、色が独特だった。煤けた赤に時折黒い石が埋まっているような。

 並んで歩くのは五人くらいが限界か。

 天井は三メートル程。

 二人並んで歩き続けていると、やがて視界が開ける。

 瞬間、緩やかに熱風が吹きつけてきた。

 思わず腕で顔を庇う。

 そして再び目を開いた時、幸助は言葉を失った。

 地下迷宮というくらいだから、侵入してから下へ下へ向かう構造なのはわかっていたが、二人の立ち位置は、周囲を一望出来た。

 果てが見えないので、少なくとも数キロ以上先まで迷宮が広がっているのだろう。

 道っぽい何かは存在する。というより、巨大な岩と岩、あるいは地面の裂け目がその役割を果たしているのだろう。

 全体的に紅く、同時に黒い。

 マグマらしきものが流れている箇所もある。

 まさしく、幻想的。

 もっと範囲を限定して、ダンジョン的。

 子供心を思い出す。

 胸を湧かすダンジョン攻略を、画面越しでなく、リアルとして体験することが出来るとは。

 子供の頃の自分に、自慢してやりたい。

「子供みたいな顔してるよ、クロ」

「あぁ、死ぬ危険もあるんだ、気を引き締めていかなきゃならないな」

「ううん、注意したんじゃないの。嬉しいんだ」

「嬉しい?」

「気付いてるか分からないけど、キミ、どんどん雰囲気が柔らかくなっているよ?」

「…………かも、しれないな」

 自覚症状も、多少はある。

 大部分は、トワの祈りという加護を見つけたことによるもの。

 あれによって、しがらみから解き放たれた。

 だがそれだけでは、きっと、ない。

「シロのおかげだ」

「あたしの?」

 繋いだ手に、少し力を入れる。

「本当に色々、世話になった」

「まるで、もう世話にならないみたいな言い方だねぇ?」

「いや、じゃあ、そうだな。今後ともよろしく頼む」

「ハグしてくれたら考えよう」

 幸助は彼女を引き寄せ、抱き締めた。

 ゼストは暑いので、彼女はしっとりと汗を掻いている。

 彼女の双丘が、幸助の胸部に触れて、にゅん、と形を変える。

「お、おぉー、随分素直になったねぇ」

 やや顔が赤いのは暑さにやられたのか、照れているのか。

「く、クロ? もう大丈夫。もう伝わった。そろそろ迷宮攻略しよう」

 その反応が可愛らしくて、幸助は腕に入れる力を強めた。

「あ、ちがう、違うよクロ。これは照れてるとかじゃなくて――魔物!」

 幸助は咄嗟に腕を離し、彼女を庇うように立つ。

 手を伸ばせば届くほどの距離に、それはいた。

 真っ黒な、人間の頭部よりも二回りほど大きな、毛玉。

 二本ずつの手足が生えており、大部分が単眼で占められている。

 その下にある口は、裂けんばかりに弧を描いていた。

「キキキッ!」

 跳びかかってくるが、幸助の目はそれをコマ送りで捉えていた。

 あまりに、遅い。

「邪魔だ」

 幸助は魔法発動や抜剣よりも速いと判断して、払うように拳を振るった。

 激突。

 バレーボールを叩いたような感触と共に魔物が吹き飛び、壁面に激突し、破裂した。

 そうだ。ゲームではないので殺した魔物は死骸を晒し、それは残るのだ。

「……これ、経験値入った?」

 シロはポカンと口を開けていたが、あははと乾いた笑い声をあげた後に、言った。

「まぁ、入ったと思うよ。ただ、この世界の経験値は、魔物個々に設定されてるんじゃなくて、イベントに対する当人の成長具合を数値化したものだから」

「俺にとって雑魚過ぎる魔物をいくら殺しても、大した経験値は入らない?」

 少し疑問を持っていたが、氷解した。

 例えばスライム一匹で五の経験値を貰えるなんてのは、ゲームだから成立するシステムだ。

 現実の人間は何億匹蟻を踏み潰したところで人間的成長など見込めないし、強くもならない。

 この世界の経験値は、成長に必要な経験と認められたものの値なのだろう。

 念のため確認しておくと、一追加されていた。

 魔物を殺すのは今のが初めてのことだったので、無価値ではなかったという判断か。

「普通、こんな入口付近まで魔物って出てこないんだけど。しばらく攻略者が入らなかったのかもね」

「ここ、全何層なんだ?」

「十一だよ。進むのはいいけど、その前に掃除していこう。モルモル程度なら正規軍でも倒せるけど、もう少し強いのだと厳しくなる」

 モルモルというのが先程の毛玉の名前らしい。

「折角駐屯してるんだ。任せておけばいいだろ」

「ちなみになんだけど、同じ魔物でも、入口付近にいる奴の方が報奨金は高くなるよ」

 それもそうだろう。

 魔物に報奨金を掛けること自体、地上に出られたら困るからという理由なのだから。

 グラス――ダイレクトグラスデバイスをこう略すらしい――によって映像記録がされているから、そういった何処で何を倒したかの証明も簡単。

「別に、今金を気にしなくても」

 幸助が渋るような声を出すと、彼女は責めるように目を細める。

「あれれ~、きみ、あたしに幾ら借りてたっけ?」

 幸助は即座に降参した。

「わかった。指示に従うよ案内人」

 心躍る冒険の前に、チュートリアルを経験するのも、悪くない。




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