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73◇英雄兄妹、口論ス

 



 トワはエルフィの許へ行こうと提案した。

 自ら蓋をした記憶の封を、解く決意が出来たということだ。

 しかし現在、エルフィはアリスの取り調べに協力している最中だ。

 今すぐというわけにはいかないだろう。

 だから幸助は、先にやっておかなければならないことを済ますことにする。

「なぁトワ、王様ってどこにいるんだ?」

「え? ……えぇと、ダルトラ王は比較的他国からの評判も良くて、放蕩することもなく国政に専念してるらしいから……執務室、かな。だって、トワの無実が証明されるって大事件でしょ。真面目な王様なら、寝てても飛び起きるくらいが普通だと思う」

 比較的他国からの評判も良い。

 この現状で?

 それが事実なら、他国の目が腐っているか、さもなければここ最近の判断が目に余るだけか。

 前者であるとは考えづらい。

 つまり後者で、そうするに至った理由があるということ。

 一部貴族の腐敗だけでなく、王がその献策を受け入れるだけの何かが。

「場所分かるか?」

「当然王城だよ? 政務官や軍人でも許可されないと入れないエリアがあるから、その何処かだとは思うけどさすがに詳しい位置は……って、どうしたの急に」

 幸助はトワの手を引いて、歩き出す。

 もちろん目的は執務室だ。

「指切りしただろ。捕縛命令を出しやがった王様に謝罪させようって」

「え、あっ、したけど……えっ、本気?」

 慌てた様子ながら幸助の手を振りほどくことはせず、トワは引かれるままに歩いている。

「当たり前だ。このままじゃ、俺達はこの国にいれない。この先も、『その方が国益に繋がるから』って理由で捨て駒にされるならこんな国願い下げだ」

 アークスバオナの目的は無視出来ない。

 ダルトラ以外の国家ではアークスバオナを止められない。

 それはハッキリしている。

 だからって感情は棄てられない。

 国という総体を存続させる為に、生け贄が必要な時もあるだろう。

 軍人だって、必要なら自殺も同然の命令を下されることがある筈だ。

 それは全て、国の為。

 より正確に言えば、国に住む民や自分の大事な人間の為だ。

 英雄だって戦いに散ることはあるだろう。

 百歩譲って、それはいい。

 英雄であることを自分で選んだ者が、そういう死に方をするのは。

 でも今回の件は話が別だ。

 国の為に戦っていたのに、国自体に名誉を貶められた。

 リガルは国家に謀殺され、トワは国家に処刑されかけた。

 こんな仕打ちはあまりにもあんまりだ。

 受け入れがたい。

 罷り通ると思っているなら、その思い上がりを是正してやらねばならないだろう。

 そうでなくても、謝罪と説明はしてもらう。

 納得できなかったら、その時は勝手にさせてもらうだけだ。

「お前を殺そうとした国なんか、本当なら一秒だっていたくない。けど、この世界から逃げることは出来ない。アークスバオナに付くのが論外である以上、この国の戦力をこれ以上低下させるのは今後生活していくことを考えても良くないだろ。それにそもそも、悪いことをした奴には文句を言わなきゃ気がすまない」

 どこへ逃げても、異界すら侵攻対象とするアークスバオナからは逃れられない。

 それに立ち向かう力を持つのがダルトラだけである以上、離れるのは得策とは言えなかった。

 しかしそれは、理性で考えた理屈だ。

 感情は、猛り狂いそうな程の炎を燃やしている。

「…………コウちゃん、過去生でシスコンって言われてたでしょ」

 幸助の手をぎゅっと握りながら、トワが言った。

 呆れるような声音だが、頬は嬉しそうに緩んでいる。

「あぁ。同じくらいの頻度でお前はブラコンって言われてたけどな」

「あはは、またまたーそんなつまらない冗談…………え、ほんと?」

「こんなつまらない嘘吐いてどうなる。甚だ遺憾だが、男子が作った『トワちゃんの彼氏になりそうな男リスト』に俺の名前があったくらいだからな」

「きも……実の兄妹なんだからありえないじゃん。……あ、もしかして義理の兄妹だったりするの? 言われてみればトワだけ容姿が優れているし、こうちゃんフツメンだし」

「命の恩人にその言い草はないんじゃないか貧乳」

「ちょっ、最愛の妹に向かって貧乳はないんじゃないの? ねぇそれなんなの? ツンデレ?大丈夫だよデレデレしてくれても気持ち悪いなんて言わないから安心しなって。思うだけにしといてあげるから」

「安心しろ、お前にデレデレしたことは一度も無い。お前が泣きついてきたことは数えきれない程あるが」

「はい? トワは生まれた時から一度も泣いたことなんてないんですけど?」

 また大胆な嘘を吐くものだった。

「じゃあ生まれた時、無言だったのか?」

「いや、冷静だったんだよトワは」

「へぇ、じゃあ第一声は?」

「『この産湯、良い湯加減ですね~』」

「冷静だな。あとお前はやっぱ馬鹿だな」

「なっ……!」

 不機嫌そうに頬を膨らませるトワを伴って軍施設から王城へ向かう。

 既にトワの釈放は知れ渡っているようで衛兵達に咎められることもなく王城内へ入ることが出来た。この辺は英雄特権とでも言えるかもしれない。

 幸助は魔力探知によって高魔力の人間を探す。

 英雄なら王城内全てを捜索範囲とすることは容易い。

 幸助、トワ、エルフィのものを除けば、反応は微弱なものばかり。

 ちなみにルキウスはアリスが作戦を見抜いた上でエコナ達を狙うことも考えて生命の雫亭に控えてもらっていた。

「…………あった。英雄みたいに高魔力ってわけじゃないが……質の違う魔力」

 全ての王族が王城で生活しているわけではないようだ。

 特別な魔力反応は三つ。

 一つは過去に拝謁したことのある第三王女のもの。

 もう一つは波が落ち着いている、これは就寝中なのだろう。

 トワの言葉を信じるなら、王は起きている筈とのこと。

 であれば、残る一つの反応がそれだろう。

「こ、コウちゃん、ほんとに行くの? 相手は王様だよ?」

「だから? こっちから礼を欠いたなら罰せられるのも分かるが、今回の場合は相手が加害者だろう。相手の立場で怒り方変える程、俺は大人じゃないんだよ」

「そういうの格好いいと思ってるなら、そろそろ卒業した方がいいってトワ思うな」

 幸助は彼女から手を離し、その顔を両手で挟んだ。

 むぎゅう、と彼女の柔らかい頬に手のひらが沈む。

「にゃにひゅるの」

 不満気な視線を飛ばす彼女と、しっかり目を合わせる。

「格好悪くてもやるんだ。俺の大事なものを傷つけた奴は許さない。もといた世界でも、この世界でも、それは変わらない。必ず後悔させる。分かったらついてきてくれ」

 手を離し、歩き出す。

 王城内には魔動式の昇降機が配備されているが使用許可が必要なので今回は諦める。

「あーあ、チンピラみたいで怖いお兄ちゃんだなー」

 彼女が幸助の横について唇を尖らせる。

「お前が死んだ後グレたからな」

「へぇ~、そんなにトワのこと大好きだったんだねー? グレちゃう程悲しかったんだ? はぁ、まったく仕方のない兄ですなぁ」

 彼女はからかうようにニヤニヤ笑っていた。

 どうにかして幸助に一泡吹かせたいらしい。

 まぁ、無理だが。

「あぁ、その通りだよ。乳は無くても妹だからな」

「……あーもう! ほんとむかつく! まだ大っきくなる可能性あるんだから! 今に見てろよ、シロさんより大っきくなってやるんだからな!」

「パット百枚くらい詰めればいけるか?」

「侮辱だ! 貧乳侮辱罪だ! 誰かこれ逮捕して!」

 国の最高権力者に文句を付けに行くという場面なのに、二人の間には緊張感というものがまったくなかった。

 息の合った兄妹喧嘩をしながら、二人の英雄は階段を上がっていく。

 



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