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34◇紅の英雄、微笑ス

 



「シンセンテンスドアーサー卿、先程は失礼をした。謹んでお詫び申し上げる」

 本来ならば、時間を掛け、構内の壇にて宝剣が下賜されるという段取りだったのだが、第三王女は気ままにその場で渡し、自分がいては皆の気が休まらないだろうと言い残して早々に去って行ってしまった。

 実際、一気に空気が弛緩し、パーティーらしさが構内に戻って来た。

 それだけ、王族に畏敬を感じているということである。

 貴族も、軍人も。

 今は、主に貴族連中が、中心あたりで、ダンスなどを始めていた。

 第三王女の従者に、剣帯も貰ったので、今、宝剣は腰に差している。

 覚えきれないくらいの人間に、挨拶をされた。

 その後のことだ。

 壁に寄り掛かり、ちびちびとジュースを飲んでいたトワを見つけて、声を掛けたのは。

 彼女は幸助を見ると、わかりやすいくらい嫌そうな顔をしたが、謝罪を受けると、ため息を溢した。

「まったくだよ。まぁ、反省したならいいかな。トワ、別に根に持つタイプじゃないからね」

「感謝します」

「コースケ」

 一瞬、ドキっとしたが、すぐに自分がそう名乗ったのだと思い出す。

「日本名っぽいね。日本が存在する世界から来たの?」

「あぁ、そう……です」

「敬語はいいよ。言葉遣いじゃなくて、言葉選びにだけ気をつけてくれれば。それにしても、日本か。トワもだよ」

 知ってる。

「そう、なんだな。まぁ、日本人顔だ」

 彼女は、口の端を曲げるように笑った。

 少し、えくぼが出来る。

「苗字は? トワはね、黒野って言うんだ。そういえば、きみの新しい名前にも、クロノって響き、入ってる。偶然かな」

「……俺は、黒木。黒い木で、黒木」

 嘘をつく。

 でも、それに、トワは、気付かない。

「あぁ、だからか。なるべく元の名前をもじったものにしてくれるんだよ、新名って。トワも、クロイシス、の部分に入ってるでしょ、クロ。でもあれだね、コースケの部分は面影無くなっちゃったんだ」

「そう、だな」

「トワは、自分の名前好きだから、残ってくれてありがたかったよ。あ、きみのこと、なんて呼べばいい? 他のやつらみたいに、クロでいいかな?」

「どうぞ、ご随意に、『紅の英雄』殿」

「やめてよ。……あぁ、トワがトワって呼ぶなって言ったの気にしてたりする? う~ん、ま、いいかな。トワのこと、トワって呼んでいいよ、クロ」

「……どうして、急に」

「だって皆と仲良さそうだし、トワだけ他人行儀なの、仲間ハズレみたいじゃん。もちろん、皆って、ルキウスと、クウィンと、エルフィのことだよ?」

「それくらい、わかる」

「トワさ、前世の記憶無いんだよね」

 心臓が、止まるかと思った。

「……エルフィから、なんとなく」

「あぁ、聞いた? 知識が消えるわけじゃないから、日本のこととかはちゃんと覚えてるんだけど、実感が無いっていうかさ。まぁ、前のトワが望んで封印してもらった記憶だから、見たいとも思わないんだけど。もしかしたら、クロと逢ったこと、あるかもね」

「……すれ違ったりとかは、あるかもしれない」

「ね、あるかもだよね。知ってた? 日本人の来訪者が多いのって、ダルトラだけなんだよ?」

「……あぁ、そういう可能性は、考えてた」

「そういう可能性って?」

「おそらく、ダルトラ、多分ギルティアスに近い国土の神殿は、日本と繋がってる。だから、日本で不幸になった者が来る」

「あっ、そっか。領土と領土が繋がってるんだったら、確かに日本人以外がたまに来るのも説明できるね。つまり、日本の領土内で死んだ外国人、ってわけだから」

「日本だけが、選ばれてるだけじゃないだろうとも、思っていた。おそらく、他の国では、日本以外の国の来訪者が多かったりするんだろう」

「おー、実際そんな感じっぽいね。あとなんか、平行世界? みたいなのから来る人もいるよ。だって前、トワ侍に逢ったからね。拙者って一人称、生で聞いたの生まれて始めて……いや、生まれ変わって初めてだよ。あ、ここ笑うとこね」

 あまり笑えない来訪者ジョークだった。

「ステータスに、冗談のスキルもあればいいのにな」

「ちょっと。今トワを馬鹿にしたよね? やっぱ生意気な新人だなぁ。締めちゃおうかなぁ」

 言葉に反して、彼女は楽しそうだ。

「勘弁してください、先輩」

「勘弁してやろう、後輩。あ、クロっていくつ?」

「十八」

「トワも!」

 だから、知っている。

「誕生日は?」

「十月、十日」

「え、トワもなんだけど……。変な偶然だ。こんなんじゃ、まるで双子みたいだね」

 双子なんだ。

 もちろん、それを伝えようとは、思わない。

「だとしたら、俺の顔も、もう少し整ってないとおかしいだろ」

「ふふっ、なになに? それってトワが超美少女ってこと? 知ってますけどね~」

 飲んでいるのはジュースな筈だが、酒でも入っているかのような上機嫌だ。

「トワさ、男の人が苦手なんだよね」

 幸助は、泣きそうになるのを、必死に堪えた。

 昔の永遠は、別に男に苦手意識など持っていなかったのを、知っている。

 つまり、記憶を失ってなお、死を招いた苦痛の創造主が、下賤なオスであると、本能が覚えているのだろう。

「なんていうかさ、えっちな目? そういうので見て来る人が、嫌いなの。一回、しつこく付き纏って来た人、燃やしたことあるからね。あ、殺してはないよ?」

「……ルキウスとは、普通に話してたみたいだが」

「ルキウスが、性欲垂れ流しな目で女の子見るとこ、想像できる?」

「いや、出来無いな」

 まだ出逢って間もないが、彼のそういった姿は、想像も出来ない。

「でしょ。でも基本、どんな男でも、性的な目で女を見るって、やるんだよ。違うかな、採点する? みたいな? まぁ女の子も、男を見る時、しないわけじゃないんだけど、少なくとも性的な目でいきなり見たりはしないわけで」

「美人とか、そうじゃないとか、口に出さなくても、考えちゃうのは、あるかもな」

「そう、それ! 無意識の分類っていうのかな。その過程で、えっちな目をするわけよ。一瞬だけだとしても、それが気持ち悪くてさー」

「男は、顔と大雑把な体型くらいだが、女性はそこに、胸や尻、足も見られるからな。嫌悪感を抱くのは、お前だけじゃないと思うよ」

「だよねっ、自意識過剰じゃないよね?」

「あぁ」

「でも、ルキウスと、それから――クロ、きみは、そういう目で見ない」

 当たり前だ。

 どれだけ可愛くても、実の妹なのだから。

「……貧乳には、興味なくて」

「あはは、日本人だから、仏の顔も三度までって言えば通じるかなぁ?」

 怒ったようだった。

 なんとも、複雑な気分だ。

 妹と、他人として、喋るなんて。

「じゃあ、男と付き合ったこと、ないのか」

「ないねー。このまま行き遅れちゃうのかなー。男が嫌いだけど、赤ちゃんは欲しいんだよね。どうしてもってなったら、ルキウスかクロと結婚してあげるよ」

「……巨乳になってからなら、考えるよ」

「決闘挑んじゃおうかなぁ? まぁいいしっ、乳で女を見る奴なんて、こっちから願い下げだもん。ほんと、後で謝っても遅いから。ほんとに。まぁ? あと五秒くらいなら? 謝罪を受け付けてもいいけどね?」

 それに、幸助は、笑ってしまう。

 妹と付き合う未来なんて、有り得ないけれど。

 有り得ないからこそ、可笑しくて、笑えてくる。

「あぁ、悪かったよ」

 謝ると、トワは満足気に微笑んだ。

「じゃあ、許してあげようかな。トワ、根に持たないタイプだからね」

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